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真夜中万華鏡 / 毎週ショートショートnote

眠れない。
もう何日も落ち込んだ気分のまま昼も夜も過ぎて行く。
窓を開けると真っ暗な空。
月はなくても星が綺麗だ。
綺麗、なんて感情は残ってたんだと思うと少し笑った。引き出しから黒い下敷きを引っ張り出して丸めて筒にする。
そのまま星を覗いたら、真夜中万華鏡。
…になるかと思ったけどただの真っ暗闇。
そうか、万華鏡は中に鏡が入ってるんだっけ。
ため息をつきながら星を覗いていると、筒の向こうに白く美しい手が見えた。
真っ暗な夜空に瞬く星と白い手。
空から伸びてくる手は間違いなくこの世のものでは無いのだろうけれど。
ここよりはマシかもしれないと右手を伸ばすと、美しい手が私の手をそっと掴んだ。
酷く冷たい。
少しの躊躇。
ぐい、と美しい手に引かれて床を離れ、窓を通り過ぎる。
屋根もビルもぐんぐん下へと小さくなる。
顔をあげれば満天の星。
私は真夜中万華鏡の中へ。
綺麗なものしかない世界へ。

ことん。
筒にされた黒い下敷きが一枚、誰もいない部屋に転がった。


#真夜中万華鏡
#毎週ショートショートnote

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