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ドーナツ 八個

「何これ!美味しそう!」
ミントが高木の鞄からドーナツの袋を取り出した。
「だろ?同僚が作ったんだってさ。」
ミントは頬を膨らませる。
「何それー。祐二くんに気があるってこと?」
高木はミントの頬を両手で挟んで押した。
「そんなんじゃないよ。皆んなに配ってたし、彼氏でも出来て練習がてら作ったんだろうよ。」
「ホントにぃ?」
高木はまだ半裸のミントを抱きしめた。
「こんなに可愛がったのにヤキモチ焼くんだ。俺が好きなのはミントだけだよ。」
ふふ、と悪戯っぽくミントが笑う。
「奥さんいるくせに。」
「それはそれ。これはこれ。」
ミントは高木の腕からすり抜けると床から小さなバッグを拾いあげ煙草を出した。
「奥さんに言っちゃおうかな。」
「そんな気無いくせに。」
高木は笑って台所へビールを取りに向かった。
「そのドーナツ、妊婦はやたらお腹が空くって聞くから持って行ってやろうかと電話したんだけどさ。真子のやつ要らないって怒ったんだぜ。」
「奥さんもヤキモチ?」
「成分が分からないものは口にしないの!だってさ。気にし過ぎだよな。」
あはは、と軽いミントの笑い声が響く。
「奥さんの要らないもの、ぜーんぶミントが頂きます!」
「おい、俺は要らないものじゃないぞ。」
缶ビールを手に振り向くとミントはベッドに腰掛けていた。軽く組まれた白く長い脚を見ながら一口ゴクリと飲む。
「里帰り中に女連れ込む旦那なんか要らないでしょ。自分のベッドで寝てたなんて知ったらゾッとしちゃうもん。」
お前が言うかと思いながらミントの隣に腰掛ける。高木が脚を見つめているのに気付くと見せびらかすように伸ばしながら高木の膝の上に乗せ、甘い香りを放つ黒いドーナツを齧った。
「これ、お母さんが最近ハマって食べてるドーナツに似てるなぁ。流行ってるのかな。うん、美味しい。」
缶ビールはベッドサイドのテーブルに置いて、ドーナツを齧るミントの脚を爪先からゆっくりと指先でなぞっていく。
「なんか…不思議な味。心が穏やかになるって言うか…祐二くんも、食べる?」
「いや。」
頬にかかる一房の茶色い髪と派手な顔立ちの大きな瞳を見つめる。
「こっちの方が美味そうだ。」
再びベッドに寝かせてふくらはぎから上へと唇を這わせていく。
ーー祐二くん脚好きだなぁ。
ミントは少しづつ息が荒くなりながら瞳を閉じた。ドーナツを齧り続けたまま。

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箔玖恵
え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。