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Photo by
_kei_
針ほどの月明かりー14ー
カラン、ガタン。
勢いよくドアが開き、男が顔を出した。少し伸びた髪に青白い顔で目は鋭く店内を見渡す。
「いらっしゃい。」
洗い物をしながら店主が声をかけると男はどかどか足音を立てながら入ってきた。ゆったりした服でも鍛えていない腹が揺れるのがわかる。
「子供、見なかった?」
狭い店内を見落としがないか何度も見ながら男が言った。
「男の子と小さい女の子。裸足の。」
「裸足、ですか。」
「あぁ、いや。ええと、ほら、子供がさ、靴を履かないで遊びに行っちまったみたいで。どこかで足が痛くて困ってるんじゃないかと思って探してるんだけど、見なかった?」
店主は子供の靴など持っていない男の手を見ながら答えた。
「見てませんね。」
男は店主の全く無表情な顔を見た。子供が好きそうに見えない髭の店主が嘘をつく理由は無いだろうと思った。
「あぁそう。」
店内には子供どころか客は一人もいない。男は軽く手を上げて出ていった。入ってきた時と同じように荒っぽく閉められるドアを店主はちらりと見て洗ったコップを二つ拭いた。ドーナツを美味しそうに食べていた兄妹は長靴を履いていた。店主は嘘はついていない。
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