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雨音

失敗。失言。思い込み。勘違い。そんな事ばかりが頭に浮かんで、後悔と今の自分への失望。一握りの希望すら浮かばなくて、足元ばかりを見て歩く。このままアスファルトに倒れてしまいたい。溶けて消えてしまいたい。「そんな風に落ち込んだ時はどうしますか?」僕は教授に聞いてみた。ここのところ僕はずっとそんな落ち込んだ気持ちで、鼻歌まじりに研究をする教授が気楽そうで羨ましく思ったからだ。教授は言った。

「そんなことより。」

そんなこと?教授から見れば僕の悩みなんて『そんなこと』だろうが、この答えはあんまりだ。僕の憤慨は顔に出ていたのだろう、教授は慌てて続けた。

「いや、君を馬鹿にしたのではなくて、落ち込んだ考えに頭を悩ませた時どうするかって事の答えだよ。頭の中で『そんなことより』って暗い考えを打ち切って空を見るんだ。昼なら青空や白い雲、夜なら月や星が見える。そうすると少し気持ちが軽くなって下じゃなく前を向いて歩ける。」

そうだろうか。窓から外を見る。…雨だ。

「重たく暗い空から雨が降ってます。」

教授は外を見てううむ、と唸った。

「私は雨の日も好きだけどなぁ。悩みごとも全部綺麗さっぱり流してくれそうじゃないか。…そういえば私が小さい頃は缶やバケツを置いて雨音で遊んだものだよ。うん、君、そのへんの物を適当に置いてみよう。」

教授の窓辺に空き瓶やカップや缶を並べた。しとしと降っていた雨がぽん、ぴちゃ、かん、と妙な音を立てる。

「雨音はショパンのなんとかって歌があったんだけどなぁ…子供だったから思い出せないよ。」

ぽん、ぴちゃ、かん、ぽん、ぴちゃ、かん。

「音楽専攻じゃないんで分かりませんが、僕にはショパンには聞こえません。」

教授は笑って

「私にも分からんが、確かにショパンじゃなさそうだな。工夫すれば音楽になるかもしれんが。ま、そんなことより、窓を開けて少し寒くなったし珈琲でも飲まないか。」

ぽん、ぴちや、かん。ぽん。ぴちゃ、かん。音楽とは程遠いけれど、雨音は楽しそうだ。

「そうですね…何だか少し馬鹿馬鹿しい気持ちになりました。そんなことより、珈琲淹れます。」


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箔玖恵
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