上空まで待って
「せまい!」
後部座席の方で大きな声が聞こえた。機内はまだ席についていない乗客もいて少しざわついていた。確かに機材変更になった為、予約時より小さな飛行機になってしまっていた。狭い、と言った声は不機嫌そうに大声で「もう、やだ。」と続いたが、他の乗客は構わず席につきシートベルトを締めた。まぁ、確かに狭い。少しして機体が滑走路へ向けて動き出すと、先ほどより大きな声で叫び出した。
「抱いて!」
ドキッとする一言だが、私より何列か後ろの方だし、シートベルトもしているから振り向くことは出来ない。おそらく近くに座ってる人たちも聞こえていないフリをしているだろう。
「抱いてったら!」
その声は続く。本人の必死さは声から伝わるが、シートベルトのサインが出ている間は誰にもどうにも出来ないのだ。
「ジャマしないで!」
抱いて、と言われている方か、それとも近くに座っている人が何か言ったのだろうか。
「抱いてって言ってるでしょ!」
あぁ、後ろを向きたい。近くに座っていたなら何とかしてあげられるだろうか。いや、私には何も出来ないから、やはり聞こえているけど平気ですって顔をするしか無いだろう。彼女が抱いて欲しいのは私ではないのだから。
彼女の必死の訴えと、何とかなだめようとする小声を聞きながら、飛行機は離陸した。上空で安定しシートベルトサインが消えると、ようやく機内は静かになった。きっと要求通り抱いてもらったのだろう。幼児と飛行機に乗るのは大変だ。気をそらす為のオモチャもオヤツも効かない時はあるものだ。頑張ってね、若いお母さん。
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