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金縛り

なんとなく目が覚めた。すごく静かだから、たぶんまだ夜だろう。何時かな…と考えていると柱時計が鳴った。

ボーン。ボーン。

2時だ。真夜中かぁ。…あれ…うちに柱時計なんてあったっけ?

途端に身体が硬直した。動かない。これはきっと金縛りだ。誰かを呼ぼうにも声が出ない。何かが見えたら怖いから目も開けられない。どこからかお経が聞こえてくる。線香の匂いもする。誰だよ、金縛りは心霊現象じゃないって言ったの。と悪態をつきつつ、手足の指先を動かそうと力を込める。しばらくして、ふっと硬直が解けて身体が動いた。

「ーって感じで怖かったから、今日は一緒に寝てもいい?」私の話に姉は笑った。

「あれは身体が寝てるのに脳が冴えてるから起こる現象なんだよ。部活で疲れてたんじゃないの。まぁ一緒に寝てもいいけどさ。」お経や線香は私の脳が恐怖で勝手に作ったのかもしれないけど、硬直する前に鳴った柱時計はどう説明するの。と反論したかったが一緒に寝てもらうためだ。我慢した。

「何かあったら起こしなよ。」と言いながらゲームしている姉の隣に布団を敷く。確かに部活で疲れていたので私はすぐに眠ってしまった。

ボーン。ボーン。

また夜中の2時に目が覚めた。と思うと同時に身体が硬直した。きた。金縛りだ。

姉を起こそうとしたが声が出ない。腕も動かないから肩を叩くこともできない。またお経が聞こえてきた。線香の匂いもしてきた所で、もしもこれが霊現象なら一緒に寝ている姉も金縛りにあっているかもしれない、と気づく。

ごめん、お姉ちゃん。私が一緒に寝たいって言ったために怖い思いをさせて。

何か見えたら怖いけれど、姉の無事を確認しようと恐る恐る目を開ける。首は動かないので横目で姉を見ると、

ぐぅぐぅ、スヤスヤ。

気持ちよさそうに爆睡中だ。

声も出せない妹の横で、規則的な寝息を立てながら眠っている。ちょっと起きてよ。助けてってば。頭の中で必死に呼びかけるものの、寝息を立てている姉は全く気付く様子がない。そうか、と私は悟った。金縛りなんて誰かと一緒に眠ってもどうにもならないのだ。

硬直したまま、横目で姉のぐっすり眠る顔を見ていると、なんだかバカらしくなった。

「もういいや。」

まだ声は出ないので心の中で呟く。

どうせ眠るんだ。動かなくてもいいや。線香は和風のアロマだと思えば落ち着いて眠れそうな気もしてきた。お経はうるさいけど、時々音楽聴きながら寝てしまう事あるし、たぶん眠れる。よし決めた。寝よう。私は金縛りにあったまま眠った。


翌朝、爽やかに起きた姉が言った。

「今日も一緒に寝る?」

私はもちろん、首を横に振った。

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箔玖恵
え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。