メガネ初恋 / 毎週ショートショートnote
ほわりカレーの香りがした。
蔦に飲み込まれた喫茶店の扉を開けカウンター席へと座りカレーを注文する。笑顔ではい、と答えた女性が珈琲を淹れる手を眺める。
「綺麗な手。」
珈琲を淹れる手が一瞬止まった。
「すみません。人を見るのが仕事なもので。」
女性は僕の顔を見て、あっと小さく声を上げた。
「お告げ様?病気が見えるんでしたっけ。すごいですね。」
さらりと笑顔で言われる。
隠れた病を教えているうちに周囲に崇められお告げ様なんて呼ばれるようになっていた。こんな普通に接してもらうのは久しぶりだ。
「この眼鏡のお陰なんです。」
ポケットから白縁の眼鏡を出す。
「私でも見えるの?」
「かけてみます?」
女性が眼鏡をかけ澄んだ瞳で僕を見つめた。
「不思議。お告げ様から桜色の靄が出てるわ。」
病は黒い煙に見える。眼鏡を返してもらい、彼女の指先に触れた手を見ると桜色の靄が流れるように彼女へと続いていた。
「壊れたのかな。」
白く美しい手が僕の前にカレーの皿を置いた。
…あぁそうか。
胸がどきり高鳴った。
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