![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161678259/rectangle_large_type_2_77d81cfd437d20504a5f7b68baa27601.png?width=1200)
Photo by
omlg_akk
長距離恋愛販売中 / 毎週ショートショートnote
看板には『手』とあった。
棚には長い指のものや厚みのあるものなど様々な手首から先の手が並んでいる。
私の訝しむ顔を見て店主はにやりとした。
「まだ恋愛してないのかい。」
失礼な。彼氏ならいる。
「恋愛すると離れたくない、手だけでも一緒にいたい。そんな本物の恋愛の手だよ。」
「じゃあどうして売ってるの?」
「ここにあるのは長距離恋愛の手だ。」
遠距離恋愛すら続かないのに、本物だなんて。
「長距離恋愛ってのは、人生の長い距離を共に過ごすやつだよ。だんだん慣れちまって、手すらも邪魔に見えてきた人が売りに来るんだ。」
私は自分の手をじっと見た。
彼の手が欲しいと思った事はない。欲しいと言われても断るだろう。
けど手を差し出してもいいほど好きな相手に売られるなんて、悲しすぎる。
「売らずに返してあげたらいいのに。」
「手を売って縁も切りたいのさ。」
どんな人がこの悲しい手を買うのだろう。
指輪が光る手が泣いているみたいに見えた。
いいなと思ったら応援しよう!
![箔玖恵](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73869533/profile_de012d6fabc5b29b3cf3b105cc098312.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)