釜揚げ師走 / 毎週ショートショートnote
寒い。
追い打ちをかけるように雪まで降ってきた。
マフラーを鼻まで引き上げる。
財布もスマホも持たずに出てきたから行けるとこなんか無くて、田舎で唯一明るい駅の待合室でお婆さんの隣に座った。
「旦那と喧嘩かい。母さんと味が違うとか言われたんだろ。何作ったんだい?」
「…うどん。」
お婆さんが吹き出した。
「ちゃんと水でしめて、出汁もしっかりとったのに違うって。お母さんと結婚しなよ!って飛び出して来ちゃった。」
お婆さんがうんうんと頷く。
「頑張りすぎだよ。うどんはしめずに釜揚げで、汁はめんみで作んな。」
「お母さんは手抜きしないんです。」
周囲を見回すとシーッと人差し指を立てる。
「嫁の手前、姑も頑張ってるだけさ。忙しい年の瀬だ、釜揚げ師走ってね。旦那も道産子ならめんみ入れときゃ間違いないよ。」
窓の外に彼が歩いてくるのが見えた。
私を見つけて走り出してコケる。
雪まみれのコートで抱きしめられた。
「ごめん。」
「私もごめん。」
めんみ買って帰ろう。
「めんみ」道産子にはお馴染みの麺つゆです。
時間かけて丁寧に作ったのに味見したらこの味になった事があります。偉いよね、市販の麺つゆ。
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