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バスの終着点

私は普段あまりバスに乗らない。

それなのに意図せずにバスの終着点まで行ってしまったことが

覚えているだけで3回ほどある。

昔住んでいた家の最寄り駅からは、短い路線バスが出ていた。

駅を出て4つほどバス停があり、少し行った所の折り返し地点に車庫がある。

運転手さんがそこで30分ほど休んでから駅へ帰る、という路線だった。

私が降りるバス停は、駅を出て2つ目だ。

ある日、うかつにも寝てしまった。

駅が始発駅のため、出発待ちの間に寝てしまったのだ。

知らぬ間にバスは走り出し、あっという間に終点まで行き、車庫へ。

運転手さんに起こされて目が覚める。

こんなに短い路線で眠りこけてしまった自分が恥ずかしい。

折り返しまで30分ぐらい待ちますよ、と困り顔の運転手さん。

車庫から家までは歩いて20分もかからないので、

気まずいし暇なのでその日は歩いて帰ることにした。

バスに乗らなくても駅から家までは歩いて20分はかからないというのに。

これではバスで昼寝しただけではないか。

2回目も同じ路線だった。

前回と違うのは出発時は起きていた。

が、急な眠気で目を少し瞑っただけなのに寝てしまったのだ。

目を閉じちゃダメだと頭ではわかっているのに

ふと、閉じてしまうときがある。

そして高確率で眠ってしまいビックリして目が覚める、

これは誰もに経験があるだろう。

その後、瞬く間にバスは終点へ。

そしてまた折り返しに備え、休憩のため車庫へ。

この日の運転手さんは後部座席で眠る私に気づかなかったようだ。

しばらくして目が覚めた。

ああ、またやってしまったか。

運転席にいる運転手さんは気づいていないようだし、

どうせこのバスは折り返して同じ道を駅まで戻るのだ。

2回目だしまた歩いて帰る気にもならず、

眠たかったのでそのままウトウトしていた。

その時、わー!という運転手さんの叫び声が聞こえた。

私もビックリして顔を上げると、ルームミラー越しに目が合った。

誰もいないと思っていた車内に人が座っていた。

うつむいていたので髪の毛しか見えず、さぞかし不気味だったであろう。

気まずいまましばらく待ち、再びバスは駅へ向かって走り出した。

すみませんでした、と小さく謝りバスを降りた。

3回目はオーストラリアだった。

ある日、暇だったので適当にバスに乗って窓からの景色を眺めていた。

いつもはあまり行かないエリアに行くバスに乗り、

いつもとは違う景色を眺めながら物思いに更けっていた。

オーストラリアのバスはみんなの足でもあるので、

沢山のバス停に止まりながら長々と走っている。

窓から差し込む太陽の暖かな光と、バスの心地よい揺れ。

しばらくすると睡魔はやってきた。

と、気づく隙もないほどの速さで知らぬ間に寝てしまった。

バスはしばらく走り、仕事を終え、営業所へ帰っていた。

目が覚めた時には運転手さんもおらず、一人きりの車内に少し焦る。

外はすでに暗くなり始めていた。

窓から周りを見渡すと、誰も乗っていないバスが数台。

日本での折り返しスタイルではなく、営業所まで来てしまったようだ。

もはや今日はもう走りませんよ、という顔をしたバス達しか停まっていない。

幸いドアはまだ開いていて、近くにこのバスの運転手さんだったであろう人が。

慌ててバスを降り、街へ戻れるバスに乗れる停留所を聞く。

寝過ごしたのか?と少し笑いながら、敷地のすぐ外にあるよと教えてもらい

長い昼寝から覚めてスッキリした私は営業所を後にした。

それにしても電車では寝過ごしても駅員さんが見回りに来るからか

車庫まで行ったという話はあまり聞かないが、

バスはよくある話なのかもしれない。

運転手さんからの死角に入っていれば気づかれないままだ。

日本だと忘れ物チェックやらで車庫に入る前は見回りがありそうだが、

外国ではきっとしないところもあるのではないだろうか。

まさにこの日も、そうだったのだろう。

車庫について、はい今日もお疲れさん!で終わりなのかもしれない。

その後、寝続けて誰にも気づかれずだとしたら。

営業所のみなさんが帰宅してしまったら。

街へ戻るバスを待ちながらそんなことを考えていた。

来たバスに乗り込み、運転手さんの目に付きやすい前の方の席に座り、

来たこともない郊外から1時間かけて街まで戻ったのであった。




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