R6 東大ロー公法系再現答案(65点)

第1、問1(以下、問1において行政手続法を省略する。)
1、(1)本件処分はXによる製造タバコ小売販売業の許可申請を拒否する処分であり、8条1項により理由の提示がなされなければならないところ、本件処分の理由は8条1項の理由の提示としては不十分であり、8条1項に反するとして本件処分を取り消すことができるか。
(2)ア8条1項の趣旨は、行政機関の判断に慎重と合理性を担保し、その恣意を抑制すること及び相手方に不服申し立ての便宜を与えることにある。そこで、理由の提示の程度は、処分の根拠法令の規定内容、審査基準の内容及び公表の有無、処分の性質及び内容、法令が適用された事実関係等を考慮して判断する。
イ本件処分の根拠法令たるタバコ事業法(以下、「法」とする。)23条3号はその文言が抽象的である。そして、審査基準たるたばこ事業法施行規則(以下、「規則」とする。)20条2号及びたばこ事業法施工規則に基づき財務大臣が定める事項(以下、「本件事項」とする。)1条は複雑であり、一般人からしてその適用関係を理解するのは困難である。
(3)よって、処分の名宛人がいかなる事実に基づきどのように審査基準が適用されて当該処分がなされたのかを認識できる程度でなければ、理由の提示としては不十分であり、8条1項に反する。
(4)本件処分はXがタバコ小売事業を開始することを制約するものであり、職業開始の自由(憲法22条1項)に関わる重大な不利益を課す処分である。にもかかわらず、本件処分の理由は規則20条2号及び本件事項1条がどのように適用され、本件処分がなされたのかが明確にされていない。よって、理由の提示として不十分である。
(5)したがって、本件処分の理由の提示は8条1項に反している。
2、(1)本件処分に対する取消訴訟(以下、「本件訴訟」とする。)において被告が規則20条2号及び本件事項1条の適用関係を明らかにしているところ、これをもって上記理由の提示の不備が治癒されたといえ、8条1項に反したとは言えないのではないか。
(2)上記理由の提示の趣旨に鑑みると、一度不備のある理由を提示した後にその不備の治癒を認めることはかかる趣旨に反し、相当でない。よって、理由の提示の不備を治癒することは認められない。
(3)本件においても、一度不備のある本件処分の理由が提示されている以上、これを治癒することは認められない。
(4)よって、8条1項違反が認められる。
3、(1)8条1項違反という行政手続法の瑕疵は本件訴訟の取消事由となるか。
(2)行政手続法の手続保障の趣旨を重視し、同法の定める重要な手続きに瑕疵がある場合は取消訴訟の違法事由となる。
(3)理由の提示の上記趣旨に照らすと、理由の提示(8条1項)は行政手続法の定める重要な手続といえる。
(4)よって、8条1項違反は本件訴訟の取消事由となる。
4、以上より、裁判所は理由の提示の不備という8条1項違反を理由として本件処分を取り消すことができる。
第2、問2(以下、問2においては憲法を省略する。)
1、法23条3号はXの職業開始の自由(22条1項)を侵害し違憲か。
2、(1)職業は人の生計を維持するための継続的活動であるとともに、個性を全うする場として人格的価値と不可分の関連にある。そして、職業活動の自由(22条1項)は職業の開始・継続・廃止の自由を保障している。
(2)ア)ここで、憲法は自然人への人権保障を前提としているところ、法人にも人権共有主体性が認められるかが問題となる。
イ)法人は社会における重要な実在であるため、性質上可能な限り法人にも人権が保障される。
ウ)法人に職業活動の自由(22条1項)が及ばないとする理由はないので、法人にも職業活動の自由(同項)が保障されていると解するべきである。
(3)よって、Xが製造たばこ小売販売業(以下、「本件事業」とする。)を開始する自由(以下、「本件自由」とする。)は職業開始の自由として22条1項により保障されている。
3、(1)法23条3号は本件事業を開始しようとする者が希望の場所でその事業を開始することに対する許可を拒否することを認めているが、これは本件事業の開始自体を制約しているわけではないため、本件自由を直接は制約していない。
(2)しかし、本件事業を開始しようとする者は経営上の採算その他経営に関する種々多様の事情を考慮して本件事業の設置場所を決定するため、かかる場所での本件事業の開始を認めない処分は本件事業を開始すること自体を断念させうる性質を有している。よって、法23条3号は本件自由を間接的に制約している。
4、(1)では、かかる制約は正当化されるか。
(2)職業活動の自由(22条1項)は上記の通り人格的価値と不可分の関連を有しているため、重要な権利である。そして、許可制は職業活動の自由自体に制約を課すものであるし、客観的許可条件による事前規制という点で規制態様が強い。一方で、上記の通り本件における制約は間接的なものであるし、職業は社会的相互関連性が強く、その制約の目的も積極的なものから消極的なものまで様々であるため、立法府の裁量が否定できない。又、社会政策又は経済政策上の積極的な目的のための規制は、立法府の専門技術的知識に委ねる必要性が高く、立法府に広範な裁量が認められる。そこで、規制が著しく不合理であることが明白な場合に限り法23条3号は違憲となる。
5、(1)法23条3号の目的は、本件事業の営業所同士が近接した地点で営業することによって生じる過当競争を原因として共倒れが発生することを防止するという積極目的にあり、かかる目的は正当である。
(2)法23条3号に基づき定められた規則20条2号、本件事項1条及び2条1号について、本件事項1条は商圏が被らないように営業所間の距離を制限した規定でありその距離も一般人の徒歩での生活圏と一致しているから合理性が認められるし、2条1項は身体障害者等により緩やかに距離制限を課すことで身体障害者等が本件事業を開始しやすくしており同項にも合理性が認められる。
6、よって、合憲である。


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