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ある学校図書館が変わった話 その2

8.新しい校長先生の話

 次の年度に校長先生が変わりました。
 きれいになった図書室で、新しい年度の図書ボランティアの顔合わせがあり、校長先生が挨拶しました。校長先生は新品のバーコードの読み取り機械を、包装されていたポリ袋から取り出して、それを高く掲げ、今後の方針を説明してくれました。

・これからは、学校の図書室は、”学校図書館”と呼ぶべきだということ
・市でも順番に、学校図書室を変える準備をしていること
・司書の検討
・蔵書のバーコードでの管理
 この機械を使って、本に貼ったバーコードを読み取ります。と新しい機械を見せてくれました。

 ちょうどこの頃、平成28年に、文部科学省から各学校に対して”学校図書館ガイドライン”の通知があった前後で、わが小さな小学校の中でも大きな変化が起きようとしていました。

 具体的に進めていくのは来年度以降とのこと。
 その年のうちに、図書室に専門の業者が来て、アドバイスをしてもらったようです。
 それから市内の小学校の学校図書館に司書さんが来るようになりました。市役所の近くの、規模が大きな小学校から順番に変えていくそうなので、その年はまだお預けでした。

9.連絡係になり、ラインでグループを作る

 この年、初めてクラスの連絡係になりました。
 担任の先生と、読み聞かせボランティアの間をつなぐ係です。

 仕事の内容は、
①学期の初めに、担任の先生に読み聞かせが可能な日時の確認をする。
②ボランティアメンバーに知らせて、それぞれ可能な日を伺う。
③当番表を作り、BCC で一斉メール。
 などです。

 途中からラインを使う人が増え、グループを作りました。これは、ボランティアの記録ノートが行方不明な時や、当日子どもが熱を出して、代理をお願いする場合など、急な対応や、連絡がずいぶん楽になりました。

 特に冬は、子どもやきょうだいの発熱、突然の学級閉鎖などがあり、油断できません。台風や、雪の日などの天候の影響も受けます。直前に”ピンチヒッターで行ける方~?” と互いに声をかけあうことがよくありました。
 自分も代打で出られるように、手元に予備の本を用意していました。エコバッグに絵本、保護者症、室内履きをセットで入れて玄関に置いておけば、いざというときに動けるかもしれません。

10.ビフォーアフターのあの曲が流れる

 いよいよ、司書さんが来て作業するようになりました。その前の準備期間に、専門家と司書さんが作業の為、図書館に何回か来てくれました。

 まず、図書館のレイアウトが変わりました。

 入り口にあった四角いカウンターが広く、曲線のついた広いカウンターに変わりました。カウンター、かっこいい!と子どもたちが喜びます。

 今までは横長のテーブルに向かい、並んで本を読んでいました。横一列に並ぶのではなく、5人くらいのグループで使える円形のものに変わりました。テーブルの中央に数字が書いてある紙が貼ってあり、班ごとに座ることができるようです。内緒話もできそうです。

 そして、本棚の配置が変わります。
 既存の棚はそのまま使用。新しい棚を少し足しました。

 窓際の絵本コーナーのそばに、低学年の子が並んで座れるくらいの小さなソファが並びます。本の世界に没頭できそうなスペースです。
 大きめのマットも来ました。ここに座って、1冊の本を何人かで一緒に広げて読む子もいます。

 調べ学習に使う、大きな図鑑は、壁にそって配置します。
 本棚の耐震用の補強もしてあります。

 用務員さんが作ってくれた手作りの低い本棚は、2台を背を向かい合わせにして、アイランドキッチンのような台として使います。
 台の上は季節のおすすめ本を並べるコーナーになりました。
 見晴らしがよくなり、外からの光が奥まで入ってきます!

 北側に背中合わせに大きめの本棚を並べます。本棚の側面に、分類項目を大きく書いた紙を新たに貼り、本が探しやすくなりました。
 
 存在すら気づかなかった詩集も姿を現し、ゆったりと並べます。詩集は上質な紙が使われ、背の装丁がきれいです。子ども向けの詩集の良さに改めて惹かれ、卒業を前に、何回かにわたって詩を読みました。

 数少ないマンガであるブラックジャックとはだしのゲンは人気があります。補強され、手を延ばせばすぐに届く棚にあります。

 新しい本は、表紙が見えるように入れられる絵本棚に入れて、カウンターの脇に。背に新刊の目印のシールが貼っています。

 数年前までは、昭和の遺産であふれていた図書室が、風通しの良い平成の学校図書館になりました。頭の中でビフォーアフターのナレーションと、あの曲が流れそうです♪

 当時は司書さんは週に1回、市内の他の学校と掛け持ちで担当するようでした。司書さんの出勤日を、ボランティアの活動曜日に合わせてもらい、棚の入れ替えの手伝いをしました。

11.バーコードリーダーの電源が入る

 バーコードリーダーの電源が入ると、図書委員の生徒たちも張り切ります。新しいカウンターで嬉しそうに座っています。図書委員をやりたいという子が増えて、倍率が上がった。手を挙げたけど、なれなかったよ。とうちの子が教えてくれました。

 来てくれるのが週に1度でも、司書さんのおかげで、図書館はすっかり変わりました。

・ボランティアの作業の内容の変化
 それまで中心だった壊れた本の修理よりも、季節の飾りつけなどの楽しい作業が増え、ボランティア募集の声をかけやすくなりました。
 クリスマスには力が入り過ぎて、窓にフィルムを貼りましたが、きれいになったものの、剥がした跡が残ってしまったこともあります。
 変わらない仕事は、迷子本を戻すこと。バーコードがついても迷子本は相変わらずたまるので、油断はできません。

・司書さんに相談できるようになる
 ボランティアは、読み聞かせの前後に、学校図書館に寄って、読み聞かせ用に学校の蔵書を借りることができる。司書さんに選書の相談ができる。
 
・先生が選書するようになる
 司書さんの直接の影響ではないかもしれませんが、図書館担当の先生が、夏休み前に、学校図書館向けの見本の展示会に行ってきましたよ、と嬉しそうに話してくれました。先生が積極的に学校図書館の選書をするようになりました。

12. 学校図書館を守る活動は、不要不急か

 子どもが入学した時に始めたボランティアでしたが、下の子がいたのでそのまま継続、いつの間にか、新しく参加した人にやり方を聞かれる側になりました。相変わらずPTAの仕事とは別で、カウントはされませんでしたが、最後まで続けるつもりでした。

 市立図書館でも、ボランティア向けの読み聞かせ講座、紙芝居講座などの実践的な講座が行われるようになりました。市内の違う小学校のボランティアに参加している人と話す機会となり、学校によって、曜日や時間が違うことを知りました。
 市内の図書館の児童書コーナーの一角にも、読み聞かせボランティア向けの資料や、読み聞かせにすぐに使える定番の絵本や紙芝居を置く棚が設置されました。

 時代は平成から令和に。公立小学校のため、先生方も異動がありましたが、ベテランの図書館担当の先生が長い期間この小学校にいたので安心して作業できました。



 ところが、自粛期間が始まり、中断となりました。
 休んでいる間に、春になったら飾ろうと、色画用紙で小さなランドセルをいくつか作りました。人気がありそうな茶色や黒、青を選びました。中に小物を入れることができます。
 季節が変わっても自粛は続き、飾るタイミングを逃してしまいました。次の年に使えばいいや、とランドセルをしまいました。
 でも、感染拡大により、不要不急の図書ボランティアが再開されるのはこの数年後。とうとうランドセルを図書館に飾ることはありませんでした。



 今も、学校の図書館を観るのが好きです。
 といっても、私はもう学生ではないので、親として覗く機会しかないのですが……。
 文化祭や、学校見学の際、学校図書館も公開されることが多いです。子どもが進学のため学校に見学をする時は、保護者として一緒に行きます。学食の次に、楽しみにしているのは、もちろん図書館です。

 本棚の配置や、蔵書の内容は学校によって異なります。
 自習する先輩学生にお邪魔します、と心の中で挨拶して、本棚の中身を眺めます。奥まで行き過ぎると子どもに止められます。
 たくさんの司書や先生方、図書委員、ボランティアたちが学生のために守ってきた本棚はどんなだろう。この棚の本を数年間かけて全部読めるなんて、なんて幸せな学生時代なのだろうと想像します。

 授業ではタブレットやPCで調べものをするようになっても、陽当たりのよい図書室で、背中に暖かさを感じながらページをめくる幸せな時間も味わってほしいです。静かな空間で、自分ひとりになる時間も楽しんでほしいです。図書館にゆったりしたソファがあれば、そこが自分の居場所になる子もいるはずです。こんな場所を守り続ける人たちに感謝をします。

 数年前のEテレの”旅するフランス語”で、フランスのある大学の図書館の中の片隅で、学生たちがうたた寝できる場所が紹介されていて、うらやましかったです。日当たりのよい場所で、少し横になればすっきりしそうです。


*これは、ある公立小学校の図書ボランティアに参加した時の個人の記憶をもとにまとめたフィクションです。著者の記憶に基づくものであり、出来事の年度が前後している場合もあります。




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