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とある公式の証明


はじめに

 今日は、以下の公式を、ふと思いついた方法で証明しようと思います:

$$
\sum_{k=0}^{n} k{}_nC_kp^{n-k}q^k=nq(p+q)^{n-1}
$$

 ここに$${{}_nC_k}$$は二項係数です。

式の証明

 示したい式の左辺を$${I(p,q)}$$とおきます。

 まず、式は二項定理

$$
(p+q)^n=\sum_{k=0}^{n}{}_nC_kp^{n-k}q^k\quad\dots(\star)
$$

に似ているので、何とか二項定理が使えないものかと発想します。

 式をよく見ると、二項定理に現れる各項に$${k}$$がかかっています。そこでまず、上記の式と類似の和

$$
S(x)=\sum_{k=0}^{n}k{}_nC_kx^k
$$

を考えます。

 この和は、$${(\star)}$$において$${p=1,\;q=x}$$とした式

$$
(1+x)^n=\sum_{k=0}^n{}_nC_kx^k
$$

の両辺を$${x}$$で微分すれば次のように得られます:

$$
n(1+x)^{n-1}=\sum_{k=0}^nk{}_nC_kx^{k-1}
$$

なので、この両辺に$${x}$$をかけて

$$
S(x)=\sum_{k=0}^nk{}_nC_kx^k=nx(1+x)^{n-1}
$$

となります。

 ここで、示したい式の左辺に対して次の変数変換を施します:

$$
p=\frac{1}{A},\quad q=\frac{Q}{A}
$$

すると、示したい式の左辺の$${p^{n-k}q^k}$$において、$${A}$$の$${k}$$乗がうまいこと消えます:

$$
I(p,q)=\sum_{k=0}^n k{}_nC_k\left(\frac{1}{A}\right)^{n-k}\left(\frac{Q}{A}\right)^k\\
=\frac{1}{A^n}\sum_{k=0}^nk{}_nC_kQ^k        
$$

 最右辺の和の部分は$${S(Q)}$$になっているので、

$$
I(p,q)=\frac{1}{A^n}S(Q)=\frac{1}{A^n}nQ(1+Q)^{n-1}
$$

となります。

 $${q=Q/A,\; p+q=(1+Q)/A}$$のことから、これを次のように変形すると、$${A,Q}$$を$${p,q}$$に戻せます:

$$
I(p,q)=n\cdot\frac{Q}{A}\left(\frac{1+Q}{A}\right)^{n-1}=nq(p+q)^{n-1}
$$

以上で示したい式を得ました。(Q.E.D.)

終わりに

 今回の式変形のポイントは、途中の変数変換で$${A}$$の$${k}$$乗が消えたことです。そのため$${S(x)}$$を使うことができ、二項定理(とその微分)に帰着できたのでした。

 この式は、今趣味で考えている、とある二準位系の問題に登場します。その問題でこの形の和が出てきたので、和の形が二項定理に似ていることに引っ掛かり、うまく二項定理の形に帰着できないかと考えていた時に、この変数変換を思いつきました。


 本日は以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

   2024年11月7日・Nekotchi

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