二十四節気「小寒」


謹賀新年 2025

 新春になりました。たなか家でもお正月はお客様がいらして賑やかだった。ママは大忙し。ニンゲンて大変ねえ。僕は相変わらずのんびりしてる。時折、お客様からちゅーるが貰えたりするのは嬉しい。お年玉より、やっぱちゅーる。
 さて、今日は二十四節気の「小寒」。僕の俳句ね。

 日本の装束を勉強中で、着付けの先生で、和裁も習ってる僕のママ。畳のお部屋には着物がいっぱい。僕は出禁になってる和室。隙あらば入ってやろうと虎視眈々の僕だけど、入っても速攻追い出されるんだ。ママには敵わない。
 その和室、さっき格子戸越しに覗いたら、僕が触ったことがない色無地が出てた。色無地ってさ、無地の着物に紋が背中に入っているやつね。
 ママは二十歳の振袖と一緒に最初の色無地を作って貰ったんだって。珊瑚色だった。僕が赤ちゃんだった時、乗っかって叱られてたのうっすら覚えてる。でも、その珊瑚色の色無地はもう家にはない。派手だから「もう私には無理!」って、ママがお友達のお嬢さんに貰ってもらったんだって。
 縮緬っていう生地だったらしいけど、僕は綸子の方が好き。とろっとして足触りが絶妙。

 二十歳のころ、ママははじめての初釜でその色無地を着たらしい。
 当時のママは大学生で鎌倉に住んでた。で、お茶を習ってた。お茶の先生に「あなたは茶の湯をするために生まれてきたような方ね」と言われて、物凄く大っきなお寺の次世代住職との縁談をおすすめされたらしいよ。
 バブル期の女子大生だったママは、「お寺!!!」ってびっくりして、丁重にお断りしたんだそうだけど、今でも伯母との会話で「あちらにお嫁入していたらねえ」ってなる。
 やれやれ、個人史も歴史。歴史に「でもしか」は無いんだよ、と僕は思うわけだ。
 お茶だけど、いわゆる「茶道」ね。ママも伯母も若い頃はお茶とお花と書道を習っていた。ロンドン留学前だった伯母は「日本人として恥ずかしくないように」という理由で日本の習い事をあれこれやっており、ママはお見合いの釣り書きに「茶道」「華道」「書道」と書けるという理由。たった数年習っただけで、「道!」と当時の伯母は笑ったそうだ。

鶴屋八幡の花びら餅

 ママと伯母のビデオ通話によると、日本伝統文化ってのは綺麗な三角形のヒエラルキー組織でできてるそうだ。能楽や舞踊はそれの最たるもので、舞台のあるお屋敷や装束を代々継いでいかなくちゃならないから各流派によって守るものが多いからなんだって。
 ヒエラルキー三角のてっぺんに、それぞれ宗家や家元がいて、高弟が続くわけで、多くの初心の人たちが底辺を支える仕組。大抵は門弟にお金持ちのパトロンがいて経済的に支える。「文化」はほら、お金かかるから。
 お茶は茶室やお道具が欠かせない。維持するのも大変。
「日日是好日」っていう映画観たことないかな? 伯母が大好きな映画なんだ。干支のお茶碗を初釜で出してきた先生(樹木希林さん)が「今年は戌年ですから犬が描かれたお茶碗ですよ」と、初心者のお嬢さん弟子(黒木華さんと多部未華子さん)に説明するのだが、お嬢さんたちは「じゃあ、これって次は12年後ですか?」ってたまげるの。象徴的な場面だって伯母が言ってる。

 茶の湯に比べてお花と書道の継ぐべき「モノ」はさほど大きくはない。そして俳句となると、とっても気楽に始められる。紙と書くものと歳時記や季寄せだけではじめられるもの。「言葉」による表現だから、初心から個性がダイレクトにでるのが良い。それでも、俳壇にもヒエラルキーがあるから面白いって伯母は言ってる。俳句のヒエラルキーについては、いつか伯母がクドクドと説明すると思うから、興味がある方はそちらを読んでね。
 僕からは季語の基本をお話しします。

 歳時記や季寄せをみてもらうと、まずは大きく、春、夏、秋、冬、新年の五項目に分かれてる。「新年」は特別なんだね。シーズン的には冬と重なっているので、新春句会なんかに投句する時は、冬の季語でも問題ないんだ。
 新年の季語は、「新春」とか「年賀」とか直接お正月に関する言葉を思いつくよね。それは勿論なんだけど、大晦日から節分くらいまでの、年が変わることに関する言葉はほとんどが季語になる。
 中でも「初~」シリーズが凄い。「初空」「初景色」「初稽古」「初句会」「初国旗」や「初笑い」「初鏡」に「初写真」「初バドミントン」なんてのもある。「~始め」シリーズには「仕事始め」「絵筆始め」とか。おせち料理に入っている「数の子」や「結び昆布」も季語。
 お正月に回りを見回すと季語だらけ。暇だったら作句してみてね。

 次は「大寒」にお会いしましょう。バイバ~イ。猫汰


追伸 ちなみに伯母も若い頃色無地を作ったそうで、白鼠色っていうか氷色。家紋の代わりに花紋が入ってる。当時のボーイフレンドが乗ってたシルバーのスポーツカーに合わせた色合いだったんだと。馬っ鹿じゃねぇーの? でも、そういう時代だったんだって。ちなみに、その色無地は伯母が今でも着ている。色が抑えめだから着られると言うが、ケチなだけかもね。

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