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声を出すということ


イベントでの声出しの緩和。
収容定員50%以下ならマスク着用の元できる、といったガイドラインから、満員でも認められるように変更されたのは、今年1月。

久しぶりに声が出せたライブに行った人は、みんなそれぞれ感じたことがあったんゃないかなと思う。
私も感じたことを忘れないように、ここに残しておく。



私の声出し解禁ライブ一発目は、スキマスイッチのファンクラブツアー(以下FCツアー)「V.I.P. Vol.4」の東京公演だった。




行く前、マスクをつけているとはいえ、飛沫が飛び交うことに不安を感じてはいた。
けれど、FCツアーというスキマスイッチが大好きな人だけが集まる場で解禁できることにすごく安心していた。
また、前みたいに全力少年でコールアンドレスポンスできるのかな、とか、歌い終わりにヒュー!!って言えるんだなとか、たくさんの期待も膨らませていた。



当日会場に入り、声を出す瞬間はちょっと緊張するのかな、とも思っていたが、実際のところはぬるっと解禁していた。
自然と声が出た。逆にびっくりしてしまった。

よく考えれば、もう10年弱スキマスイッチのライブに通い続けている。
どんなときに声を出していたのか、すっかり体に染み付いていたし、会場に行けばちゃんと思い出せたのだ。

また、スキマスイッチは今年デビュー20周年。おそらく、コロナ禍にFCに加入したファンよりもそれ以前に加入したファンの方が圧倒的に多いはずで、その大半がコロナ前にスキマスイッチのライブを経験していると思われる。
みんな私と同じで、不安はありながらも経験が後押しをしてくれていた。
みんな仲間。だからいい意味で、緊張感なく声援を送ることができた。

そして一番感動したのが「吠えろ!」だった。
2021年にリリースされた楽曲。そのタイトルのとおり、メロディーに合わせて「ウォー」と吠える(歌う)パートがあるのだが、これまではお客さんは手を左右に振る動作をするのみで、実際に声を出して吠えるのはボーカルの大橋さんだけだった。
でもこの日は、お客さんにも吠えさせてくれた。

みんな、ずっと、吠えたかったんだと思う。途中で演奏がおとなしくなり、お客さんの声で会場が満たされる。
私は途中で声出すのをやめてみたのだが、2000人近くのお客さんの声が一気に耳に傾れ込んでいて泣きそうになった。
そしてただの叫ぶ声じゃなくて、ひとつひとつに感情が乗っている。どんな感情なのかはひとりひとり違うけど、共通しているのはそれをスキマスイッチに届けたいという想い。声出しがあたりまえだった時代には気付けなかった。

そして期待していた全力少年のコールアンドレスポンスはなかった。(メドレー形式での演奏だった)
でも今まで制限されていた吠えろ!でやっと声が出せた。
私は声出し=元に戻ることだとばかり思っていたけど、過去を取り戻しながらまた新しい形で未来に進むことがちゃんとできるんだと思った瞬間でもあった。



そして声出し二発目のライブがマカロニえんぴつのライブハウスツアー。
ひとつの会場で1日目ワンマンライブ、2日目はゲストを呼んで対バンライブという形式で、私は東京公演のワンマンライブに参戦した。



私はファンの年齢層から、声出しが解禁されたらとんでもない大声援になるのだとばかり思っていた。ただ、実際は声を出している人もいれば、反対に戸惑っているような人もいて、「あれ?」と違和感を持った。
そして序盤のMC で、はっとりさんからこういった言葉が出た。


「コロナ前からライブに行ってた人はやっと戻ってきたって感じだよね。我々もそうです。でもねコロナ禍でライブに行き始めた人もいるんです。くさい!暑い!もう帰りたい!でもライブってこれなんです!」
「我々はそういった人(コロナ禍でマカロニえんぴつのライブに行き始めた人)たちのケアもしてあげないといけないわけです」


そう、マカロニえんぴつはコロナ禍でファンを掴んだバンドだ。
インディーズ最後のアルバム「hope」の発売は第一回目の緊急事態宣言直後。メジャーデビューも思いっきりコロナ禍。しかしサブスクでの広がりや、メジャーデビュー後の数々のタイアップなとで話題性を呼び、ここまで知名度を上げてきた。
私もhopeから入った口なので思いっきりこの話題の波に乗ったわけである。

そうなると、コロナ禍に入ってからマカロニえんぴつのライブに行き始めたというお客さんがかなりの数いる。ファンの年齢層を考えると、ライブというものは「声は出さずに、拍手で盛り上がるもの」と思っている人もいたかもしれない。
ワンドリンク別の声出しは有名だけど、それ以外でどんな曲のどこでどんな声を出していたのか、分からない人が大半だったのではないか。実際私もそうだし、左隣の女子高生二人組や右隣のカップルからもその雰囲気を感じた。
初めて経験することに対する不安や迷いがどことなく会場に漂っていたのだ。

はっとりさんのあのMCはこのツアーの最初からあったのか、それとも各地まわって感じたことだったのかは分からない。でもそういったお客さんへの配慮がすごく嬉しかった。
ちょっと話はそれるけど、はっとりさんは色んな立場で物事を考えてくれているのがライブの度に伝わるからすごく安心できてます。



この日は、私も声を出すタイミングを学ばせてもらっていた。
個人的には働く女の「出勤!直帰!」のコールを学生がしてる空間にちょっと笑ってしまったし、定時ダッシュして職場から会場に駆けつけた私にはそれが自分で自分を鼓舞しているようでちょっとむずがゆかった。
そして洗濯機と君とラヂオの「この声がこの恋が〜」は各サビごとに微妙に歌詞が違うので、これまで曖昧に覚えていたことに気付かされた。記憶力が年々低下しておりますが次はちゃんと覚えます。がんばります。



そしてライブは進み、アンコール。
2021年に発表され、大きな反響を呼んだ「なんでもないよ、」が歌われた。

「ラララ〜」を歌うことで締められるこの歌、これまではステージ上のメンバーが歌いつつ、時折はっとりさんが歌うのをやめて、心の中で歌っているであろうお客さんの声を聞こうとする姿が印象的だった。

でも、今日は声を出してみんなで歌える。

この曲はサブスク3億回再生も果たしているので知名度は抜群。
あの会場にいたほぼ全ての人が知っていると言い切ってもいい。
みんなから戸惑いの色は消え、アウトロになると迷わず「ラララ〜」を歌い始めた。

この日は2階席だったので1階の様子を見てみると、隙間がないくらいパンパンに埋まったフロアから、みんなまっすぐにステージを見て、歌声を届けている。そしてそれを嬉しそうに噛み締めているメンバーがいた。
2階席はある程度空間が保たれているので、私自身は臭い!もう帰りたい!とはならなかったけど、年齢も過ごしている環境も違う人たちが、マカロニえんぴつが好きというだけでひとつになれることに対して「やっぱりライブってこれだよね!」と思った。


ここまで体験したことを書いてきたけど、感動的だった!では片付けたくない自分もいて。
正直まだ、飛沫感染のリスクがあると思うと少し怖い。

だって声を出さなくてもライブは成り立つ。
マスク越しでも表情は一応伝わるし、拍手に熱量を込めることだってできる。

私以外の人も、声を出している空間を見て、たくさんの葛藤や驚きがあったんじゃないかな。



でも、直接声を届けたときのアーティストの嬉しそうな表情が忘れられない。




「私が、私たちになる。私たちが、みんなになる。みんなが、私たちになる」

Perfumeの[polygon wave]のライブのモノローグで印象的だった一言。
声がどれだけステージにいる人たちにエネルギーを与えていたのか、そして返してくれる歌声がどれだけ客席にいる人たちの力になっていたのか。一方向ではない、この循環が大事なのだと気付かされた。

だから今は、変わっていくもの、変わらないものに折り合いをつけながら少しづつ楽しめるようになったらいいな。
今はそんなふうに考えています。

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