【声劇台本】Time After Time(30分程度)


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以下本文

(帽子を被った前園が部屋に入ってくる。前園、鞄を持っている。部屋を見回しため息をつき、辺りを整頓しはじめる。続いて上野が部屋に早足でやってくる。)
上野:コンシェルジュ!

(前園ふりかえり、ニコリと微笑む。)
前園:はい、なんですか?上野くん
上野:『はい、なんですか?上野くん』じゃなくて勝手に先に行かないでくださいよ!(前園の真似をしながら)『ベルボーイは必ずお客様の三歩前を歩く!略してB.K.O.スリー.A!!』そう言っていたのは、前園さんじゃないですかっ!
前園:私の威厳のために言うけど略してはいませんよ。
上野:と、に、か、く!前園さんは今日はお客様、三歩前を歩くのは私です!(BKO3Aが説明された画用紙を出す)
前園:(BKO3Aが説明された画用紙を丸めながら)すまない。ついクセでね。
上野:だ、か、ら、私はお客様じゃありません!って前園さんは『BKO3A』なんて事はしないでいいですから座っていてください!
(上野、ブツブツいいながら前園のゴミ(画用紙)と鞄(ひったくるように)受け取る。ゴミを捨てるがゴミ箱から外れ、それを拾い捨てる前園。)
(上野、机に鞄を置く。置き方が気に入らないのか、置き位置を直す前園。その他色々上野の後ろについて回り、仕事をやり直していく前園。)
上野:前園さぁぁぁぁぁぁんっ!!
前園:ははは、すまないすまない
上野:もう一度言いますけど、今日はお客様なんですから!ほら座って!
(上野、無理やり前園を座らせる。上野の後ろに再び行こうとする前園を睨みつける上野。前園が座った所で作業しながら話し出す上野。)
前園:今日は私しか、泊まらないんだろう?別にそんな綺麗にしなくてもいいですよ。
上野:ダメです!(変な顔しながら)『お客様全員に、平等に最高のおもてなしを!』 これ、前園さんがおっしゃったんじゃないですか。
前園:略して『O.Z.B.S.O』。まぁ、そんな顔で言ってはいないですけどね。まあでも、私の言ったことを覚えていてくれたのは嬉しいですよ。ですがね
上野:(遮って)い、い、ん、で、す、!前園さんが泊まるからこそ完っ璧に自分がやりたいんです。私が出て行った後、さっきみたいにいちいち直されたら嫌ですし!
前園:はっはっは。さっきは悪かったよ。でもね、ただ立っているだけだとなんだかみんなの仕事の邪魔しているようで落ち着かないんだよ
上野:もう、なに言っているんですか。これは従業員のみんなからのプレゼントなんですよ!
前園:物より思い出、プライスレス。上野君はベルボーイの鏡だね。
上野:いやいや、照れますって。みんなで色々計画してたんですよ?前園さんがホテルを辞める日はお客様としてココに泊まってもらおうって、みんな前園さんにお礼がしたいんです。
前園:分かりました。気がすむまでやってください。
(再び作業を始める上野。前園はソワソワしている。)
上野:アッー!!!なんてことだぁぁぁぁぁぁ!!!
前園:(上野を見ずに)どうしたんですか。
上野:ここに、落書きがっ!!!
前園:あぁ良く見つけましたね。それは女優の高峰ミキコ様のサインですよ。
上野:女優のサイン!?本当ですか!??」
前園:ええ。以前ここにお泊りになった時にお書きになっていったんです。そういえばこの部屋でしたね。
上野:高峰ミキコ・・・聞いたことない名前なんですけど。有名な方なんですか?
前園:昔の女優さんですからね。若い方が、ご存知ないのは当然かもしれませんが。
上野:どんな方だったんですか?
前園:とても綺麗な人でしたよ。意外とお茶目なところがあって
上野:まだ来たりするんですか?
前園:何年か前にお亡くなりになりましたよ。
上野:そうなんですか・・・ところで前園さんって、いつからココで働いているんですか?
前園:四十年と・・・五日くらいですかね。
上野:四十年!?オリンピックが十回にゴルゴ13の連載記録に並んじゃうじゃないですかっ!
前園:まあ、今のオーナーより前からココで働いているからね。
上野:だからオーナー、前園さんには敬語なんですね。最初会ったときは思わず間違えましたよ
前園:ははは、そんなにですか。
上野:ちなみに、前のオーナーってどんな人だったんですか?
前園:とても優しい方でね。前のオーナーには本当に良くしていただいたよ。学歴のない私がベルボーイからココまでなれたのもあの人のおかげですよ
上野:その...四十年間一度も、この仕事やめたいなぁとか、思わなかったんですか?
前園:そんな事一度も思ったことありませんよ。私はこのホテルを愛しているんです。
(考え深げに前園を見つめる上野)
上野:やっぱりすごいな。前園さんって。そんなことサラっと言えちゃうなんて。でも、ちょっと危ないですよ?
前園:そうですか?
上野:(ニヤニヤしながら)ちょっとだけ。
前園:ははは、危ないですか。(ふと)そういえば上野くんは、この仕事始めて、そろそろ一年くらいですか?
上野:うーん。大体それくらいですね。ピカピカの1年生です。
前園:後二、三十年したら、このホテルに愛着が沸いてきますよ。
上野:あはは。そうしたら私もコンシェルジュですかね。
前園:そうですね。

(二人、笑う)

上野:それにしても、高峰キミコはなんでわざわざこんな見えにくい所にサインしたんですか?もしかして子役だったとか?
前園:違いますよ(笑いながら)それはですね・・・
上野:それは?
前園:それは
上野:それは?
前園:上野君がコンシェルジュになったら教えてあげますよ。
上野:・・・(溜め息)
前園:ははは。いや、高峰様からこのことから絶対内緒だと言われているんですよ。
上野:え~言いかけたんですから言ってくださいよ!!
前園:駄目です。お客様との約束は絶対です。略してOYZ
上野:そんな~!
(上野ブツブツ言いながら、再び作業を始める。前園、考え深げにサインを眺める。)
上野:前園さん。
前園:うん。
上野:前園さん?
前園:(ニヤニヤしている)うん。
上野:前園さん!!
前園:あははははは・・・
上野:ま、前園さん?
前園:んっ?呼んだかな?ニヤリ。
上野:『んっ?呼んだかな?ニヤリ。』じゃないですよ!さっきからずっと呼んでいるのに全然反応しないし。しまいには一人笑い始めるし。超怖かったですよ
前園:ははは、すまない。思い出し笑いをしてしまいました。で、どうかしましたか?
上野:片付け終わったんで、仕事戻りますね。
前園:ああ、ご苦労様です。
(前園、鞄がずれているのに気づき、戻そうとするが上野にはばかれる。上野、部屋からでていこうとするが、ドア直前で立ち止まる。)
上野:あ!もうこんな時間。お昼はどうします?ルームサービスでも頼みます?それとも私がつく
前園:(遮って)いや結構。まだお腹が減ってないのでね。
上野:じゃあ!夕食の時間までにはお腹減らして待っていてくださいね!今日は前園さんの為にシェフが腕によりをかけて作るってっ言っていましたよ!
前園:分かった。楽しみにしているよ
上野:そういえば今日はご家族の方とかは、いらっしゃらないんですか?
前園:ん?あぁ、残念ながらそういうのはいなんですよ。
上野:え、あっ、ごめんなさい。
前園:いや,いいんだよ
上野:・・・またなにか用があったら、いつでも呼んでくださいっ!
前園:ええ、頼みましたよ。

(上野、はける。前園、サインを見に行きしゃがむ。)

(20代くらいの前園になる)
(高峰が鼻を押さえながら部屋に入ってくる。前園、気づいて立ち上がる。ウロウロ動き回る高峰。こっそりドアを開き、キョロキョロしていると、前園を発見し、ものすごい形相で手招きする。)

前園:失礼します!高峰様!(一歩進んで)いかがなされましたか!
高峰:そんな堅苦しい挨拶なんかいいから早く!早くドアをしめて!!
前園:ん、ばたり。
(急いでドアを閉めるまえぞの)
高峰:鍵も、鍵もかけなさい!早く!
前園:ん、かちり。
(鍵をかけるまえぞの)
前園:で、今度はどうなされました?
高峰:なによ!まるで私が何度も問題を起こしてるみたいじゃないの!
前園:窓に指紋やほこりがある。等はいいのですが、木目が顔に見えるとか、棚の下にヘアピンを落したとか・・・
高峰:なんでいちいち覚えてるのよ!
(会話をしながら前園を避けるように部屋の隅のほうに隠れる高峰。前園が向かいあおうとすると顔をそらす。)
前園:・・・って高峰様?
高峰:ここよ。
前園:どうしてそんなところに
(まえぞの、近づく)
高峰:こ・な・い・でええええ!!
前園:いかがなされました高峰様!?
高峰:・・・ったの
前園:え?
高峰:・・・っちゃったの!
前園:すみません、聞き取れなかったのです
高峰:(遮って)鼻の穴に入って取れなくなっちゃったの!!
前園:え?鼻の穴?・・・なにが、ですか?
高峰:このペンのキャップが!
(極太マーカーを差し出す高峰)
前園:なんでそんなものが鼻に!?
高峰:分かんないわよ!ボーと脚本読んでいたら、なんとなーく、コレ鼻に入るかなぁ。コレ、鼻に入るかなぁっ・・・入ったら幸せになれるかなぁ・・・って
前園:幸せって、なんだろう。
高峰:いいから!なんとかして!
前園:かしこまりました。すぐお医者様をお呼びいたしますね。
高峰:ダメ!!
前園:なんでですか!
高峰:こんな恥ずかしい姿、誰にも見られたくないの!もし医者がマスコミにバラしたらどうするのよ!
前園:大丈夫ですよ、その前に私がマスコミに・・・(高嶺に睨まれている)で、っでは、マネージャーの方に来ていただきましょう
高峰:絶対ダメ!
前園:えええええ!
高峰:あのイヤミ男に、こんな所見られたら何を言われるか・・・
前園:チミィ、いくらウケが良くてもそんな天然少女なんていないよぉ?あ、作ってるから養殖か。かっかっか。
高峰:考えるだけでゾっとするわ!養殖なんて死んだほうがマシよ!
前園:大女優高峰ミキコ、ホテルの一室で首吊り自殺!鼻の穴には謎の極太キャッ・・・(高峰が睨んでいる)
前園:じゃ、じゃあ一体どうすればいいんですか!?
高峰:あんたが取りなさい
前園:は??
高峰:あんたがどうにかして、キャップをとりなさいよ!
前園:そんなことを言われましても・・・
高峰:さぁ!早くさぁ!!
前園:しかしですねぇ!
高峰:この私がお願いしているのよ!取りなさい!
前園:分ーかーりーまーしーたー!ではコチラをむいてください。
(ゆっくり向き合う二人)
高峰:な、なによ、ドキドキするじゃ・・・
前園:(遮って)うわぁ・・・
高峰:え?そっそんなにひどい?
前園:これはひどい
(高峰、まえぞのを殴る)
前園:いたっ、鏡で見ますか?
高峰:いや!絶対いや!
前園:はい。鏡です。
高峰:うわぁ・・・
前園:ではちょっと失礼します
(まえぞの、引っ張るそぶり)
高峰:ちょっと無理に引っ張らないでよ!(もう一度ひっぱる)切れる!
前園:そう言われましても・・こうしないことにはとれませんよ、だって・・・はい。鏡
(高峰、まえぞのを叩く)
高峰:馬鹿!もっと他の方法考えなさいよ!
前園:いったいなあもう・・・では、こうティッシュを丸めて・・・
高峰:女優がそんな事できるわけないでしょ!?
前園:女優は鼻の穴にマーカーのキャップを入れることはできるんですね(高峰睨んでいる)・・・待ってください!今考えますから!
(長い沈黙。高峰、悩むまえぞのに飽きてサインペンで落書きしはじめる。
高峰:ねぇ、アンタって本当変わっているわよね
前園:そうですか?
高峰:そうよ。こう見えても私、性格悪くて有名なのよ。マネージャーは違うホテル泊まっちゃうくらい私を嫌っている。どいつもこいつもペコペコペコペコ。アンタとここのオーナーくらいよ?こんな賑やかなのは。
前園:そうですか。まぁオーナーも私も、高峰様が大好きですからね
高峰:ありがとう。私もアンタが好きよ。
前園:・・・高峰様
(高峰を押さえつける前園)
高峰:・・・えっ?
(抱きしめるようにゆっくり近づき、勢いよく鼻からキャップをとる。)
高峰:痛!
前園:あー。とれて良かったですね。鼻も切れてないみたいですよ。
高峰:えっ?あぁ本当だ。よかったぁ
前園:一応消毒致しましょうか、お薬をお持ちしますね。
高峰:え、えぇ、お願いね
(出る途中で落書きに気づく)
前園:って、あっちょっと!こんなところにに落書きしないでくださいよ!
高峰:大丈夫、そこならバレないわよ。それにそれ落書きじゃなくて、サインだから
(前園大きくため息。)
高峰:前園、
前園:なんでしょうか?
高峰:アンタ早く結婚しなさいね。私みたいに売れ残っちゃ駄目よ?幸せになんなさい。
前園:えぇはい、承知いたしましたっ。
 
(舞子がバカデカい声で歌っている。(ややオンチめ)
 
前園:失礼します。お客さ・・・
(辺りを見回す前園)
舞子:パパとママならいないよ。まだお仕事の時間だもん
前園:お仕事?
舞子:そう、お仕事。
(そういって再び歌い出す少女。その少女の前に座る前園)
前園:・・・お客様
舞子:なにー?
(前園と目をあわせようとしない少女)
前園:もう少し小さな声で歌ってもらってもよろしいでしょうか?もうこんな時間ですので。
舞子:はぁい。
前園:・・・歌がお好きなんですか?
舞子:べつにぃ
前園:では、どうして歌ってらっしゃるんですか?
舞子:パパがね、舞子がもっと小さい時に言ってたの。寂しい時は大きい声で歌うと寂しくなくなるぞって。
前園:そうですか
舞子:今は寂しい訳じゃないよ?ただ一人になると歌っちゃうの。クセになっちゃったのね。今はお兄ちゃんがいるから歌わなくても平気だよ
前園:じゃあ、私がいなくなったら、また歌うんですか?
舞子:えへへ
前園:それは困りましたね
舞子:お兄ちゃんがさ、舞子が寝るまでココにいればいいよー。そしたら舞子も歌わないっ
前園:それはそれで・・・(歌いだそうとする舞子)わかりました。お客様が眠るまでココにいます。
舞子:あはは、お兄ちゃんって面白い人だね。普通子供をお客様なんて呼ばないよ
前園:お客様はお客様ですからね。
舞子:硬い硬い、そんなんじゃもてないよ?
前園:いいんです、モテなくて
(舞子、ちょっと嬉しそうに笑う)。
舞子:今日ね、遊園地に行ってきたの。
前園:遊園地。ご両親とですか?
舞子:ううん、ベビーシッターの大橋さんと
前園:・・・ベビーシッターの大橋さん?
舞子:うん、大橋さんってすっごいデブなの
前園:あー、そうなんですか、デブデブですか。
舞子:うん、で、そのデブデブの大橋さんね、最近久しぶりに好きな人ができたんだって。でね、遊園地いる時もずっとソワソワしていて。全然楽しくなかった。本当は舞子が寝るまでココにいなきゃいけないんだけど可哀想だから寝たフして帰らしてあげたの。
前園:寝たフリですか
舞子:そう、私いい子?
(まえぞの、少女を見つめ少女の頭を撫でる。舞子、少し驚くが嬉しそうに微笑む。)
舞子:・・・えへへ。
(お互い見つめあい笑う。)
舞子:ほんとはね、お父さんたちお仕事じゃないの。
前園:では、どうなされたんです?
舞子:お父さんもお母さんも、シッターさんもお仕事って言ってたけど違うの
前園:そうなのですか?
舞子:うん。きょうはね、話し合いなの。
前園:なんの、ですか?
舞子:舞子が、お父さんとお母さん、どっちのおうちで暮らすのか。
前園:・・・。
舞子:りこんっていうの。知ってる?離れ離れになるんだって。
前園:嫌ではないのですか?
舞子:うん。舞子ね、お父さんとお母さんに聞いたの。なんでりこんなんてするの?って。
前園:はい。
舞子:そうしたらね、二人とも『愛がなくなった』んだって。
前園:・・・そうなんですか。
舞子:愛がなくなったら仕方ないよね。
前園:・・・そうですね。
舞子:舞子ね、お父さん大好きなの。だからお父さんと行きたいなあ。
前園:ご両親にはお伝えになったんですか?
舞子:ううん。
前園:・・・どうして?
舞子:だって、お母さんかわいそうじゃない。お母さんね、ひとりじゃ何にも出来ないの。舞子がいろいろしてあげなくちゃだめだもん。舞子ね、お料理も、お洗濯も出来るの。すごいでしょ。
前園:そうですね、じゃあ、ご褒美をあげないといけませんね。
(まえぞの、少女に飴を渡す)
 
(上野、部屋に入ってくる。前園はまだ座っている。)
 
上野:わっ!こんな時間まですわってたんですか?
前園:・・・ん、もうこんな時間ですか。
上野:みんな心配していますよ。夕食の時間になっても、前園さん降りてこないから。どこか出かけているのかと思ったら、ずっと部屋にいたんですか。
前園:あぁ、ちょっと物思いにふけってしまいました。年を取ると駄目ですね。
上野:なに考えてたんですか?昔のことですか?
前園:・・・ええ
 
少し沈黙
 
上野:まぁとりあえず下行きましょう。
(上野、はけようとする。)
前園:上野君
上野:はい。
前園:・・・。
上野:どうしたんですか?
二人、見つめ合う
前園:今日、ここで死のうかな、なんて思っていたんです。
上野:え?え?え?
前園:死のうかなあ・・・死んだら幸せになれるかなあ・・・
上野:それ、本気ですか?
前園:これ。(前園、手に握っていたものを、上野に渡す。)
上野:・・・これって
前園:それを飲んで、このホテルで死のうと・・・そう思ったんです
上野:・・・どうして
前園:たぶん、怖いんです。
上野:なにがですか?
前園:明日からの毎日が、ですかね
上野:・・・。
前園:なにも想像できないんですよ。明日からどうやって生きていくのか
上野:・・・。
前園:私の、すべてなんですよ、このホテルは。
上野:前園さん・・・
前園:私はホテルを愛していますからね。
上野:でも・・・


 
前園:あははははは。でももうやめました。
上野:え?
前園:死ぬのはやめにしました。
上野:ま、前園さん・・・
前園:ははは、すみません。
上野:(ため息)心臓止まるかと思いましたよ・・・。でも、話してくれたのはうれしいです。
前園:こんなことを話せるのは君にくらいだよ。
上野:えぇっ、照れるなあ
前園:少しだけ若いころの私に似ているからかもね、もちろん、見た目などではなくてね
上野:やった、じゃあ時期コンシェルジュは前園さんの推薦でわた
前園:無理ですね、君は私と同じで忘れっぽいですからね
上野:前園さん!!
前園:はっはっはっ。
上野:でも、どうして急にやめようと思ったんですか?
前園:・・・愛しているから、かな。
上野:まさか。私を!?
前園:ははは、それはないですね。上野君は息子みたいなものですよ。
上野:はは、そうですか。
前園:何かを愛しているとね、死ぬのが怖くなるんですよ。
上野:・・・。
前園:私は昔から逃げ足だけは速いので。ほら、四十年間お客様の三歩前を逃げてきましたからね。

二人、笑う
 
上野:・・・みんな待ってますよ。
(前園、歩き出す上野を引きとめ、微笑む)
上野:ありがとうございます。あ、そうだ。これ。
(封筒を渡す)
前園:ん?なんですか?種?
上野:ひまわりのですよっ。
前園:どうしたんですか?これ。
上野:定年のプレゼントです。わたし個人から。
前園:あぁ、ありがとうございます。でもこれ、ホテルのお庭のでしょ。
 
二人、顔を見合わせ笑う
 
上野:私も、待ってますからね
(上野はける。)
前園:私は、やっと大人になれたみたいだね。

(前園少し笑ってはけようとするが、鳥海とすれ違い足を止める。)

(30代くらいの前園)
鳥海:素敵なお部屋ね
前園:気に入りましたか?
鳥海:えぇ、とっても
(前園、女の荷物を受け取り隅に置き、片付け始める。)
 

 
前園:あ、紅茶でも、入れますかね?
鳥海:ううん、今はいいわ。
前園:そうですか・・・。
鳥海:あら・・・
前園:どうかしました?
鳥海:綺麗ね
前園:中庭ですか?小さいですけど、綺麗に手入れしてあるでしょう。
鳥海:あの芽はなにかしら
前園:ひまわりの芽ですよ。それ、僕が植えたんです。
鳥海:あら、前園くんが手入れしているの?
前園:最近は暇なときに庭師さんの手伝いもしているので。勉強になります。
鳥海:がんばってるのね・・・
前園:(照れ)いえ・・・
鳥海:あの隅のアジサイがとっても綺麗。ここのはまだまだ元気なのね。病院のはみいんな茶色くなっていたわ。
前園:大分暑くなってきましたからね、アジサイなんてここらじゃもうウチくらいですかね。
(女、少しよろける。まえぞの、抱きとめる)
前園:鳥海様!?
鳥海:ただのめまい。大丈夫よ。
前園:・・・少し横になりましょう。
鳥海:二人の時は佳代でいいわよ 
前園:佳代、横になろう、無理をしないで
鳥海:わかった。じゃあ、少しだけ
(まえぞの、彼女を支え歩こうとする。)
鳥海:少しだけこのままで、ね?
前園:・・・。
(前園、強く抱きしめる。しばらくして鳥海、咳込む。)
前園:佳代・・・やっぱり病院に戻ったほうが・・・
鳥海:(前園の言葉を遮るように)ここにいたいの。それに、せっかく病院から開放されたのにまた戻るなんて嫌よ?
前園:・・・。
鳥海:あなたがそんな顔しないの。私、ここで働いているあなたが一番好きよ
前園:・・・佳代。
前園:・・・オーナーが呼んでいます。行かなくては・・・
鳥海:・・・ねぇ、前園。
前園:いかがいたしましたか、鳥海様。
鳥海:後でお庭に行きたいわ。
前園:・・・かしこまりました。
鳥海:必ずよ?
前園:はい、必ず。
(鳥海、まえぞのを強く抱きしめる)
鳥海:オーナーさんが呼んでるわよ
前園:・・・はい
鳥海:・・・私ね、ずっと死のうと思ってたの。ずっと病院にいて、薬飲んで、美味しくないご飯食べて、遊びたいのに外に出れなくて。おしゃれも出来ない。だからね、あの日病院を飛び出して、思いっきり遊んで、死んでやろうって思ってたの。怖くはなかった。『死ぬなんて、ただ明日目が覚めないだけ。』そう思ってたから。だから本当に死ぬ気だったの。でも、本当に死にそうなときにあなたが来るんですもの。このホテルの前で倒れた私を病院まで連れていってくれた。
(鳥海、前園を見る)
(現代の前園に戻っている)
鳥海:ねえ、前園。私ね、その日から死にたいって思わなくなったの。なんでだと思う?
前園:わかりません、鳥海様。
鳥海:あなたをね、愛してしまったからよ。
前園:・・・。
鳥海:怖くなったのね、死ぬのが。
前園:なぜですか?
鳥海:だって、死ぬって『もう会えない』ってことじゃない。
鳥海:あなたに会えなくなるのが怖かったの。初めてだった。
鳥海:病気なんかよりもつらくて、苦しくて。あなたのせいなんだからね?
前園:私には、わかりません・・・
鳥海:もう少し大人になればきっとわかるわよ。まだまだ子供なんだから。
前園:申し訳ありません。
鳥海:あなたの、そういうところも大好きよ。


 

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