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浪花心霊オプ・文楽太夫変死事件(第7話)
7.
翌日は朝から沼澤は動物園前から梅田に出て阪急線に乗り換え庄内駅で降りて通りを渡り、路地へ入った。
(自分の夫が呪い殺されたと信じ切って調査を依頼した奥さんに対して、あなたの旦那さんこそ呪いの元凶でしたとどのタイミングで言うべきか。)
思い悩みながら歩いていると、閑静な住宅街の一角に異彩を放つイベントホール176boxが見えた。
176boxは、イベント開催に手ごろな広さと立地の便利さから、プロレスや格闘技などの会場として利用されている。
おりしも週末開催の格闘技の音出しのリハーサルが行われており、アグレッシヴな音楽が表にも響き渡っていた。
勝手知ったるといった面持ちで、沼澤は扉を開けて中へ侵入した。
ホールの中央には八角形のケージが設置されており、ケージの中に沼澤の尋ね人がいた。
「お仕事中すいません。横井さん。」
「おう。」
ストライプのシャツ姿の男がケージから出てきた。
横井卓三は、ムエタイやMMAのレフリーを生業としている。だが実家は京都の霊験あらたかなことで知られた神社で、レフリーの仕事がない日は実家で祈祷を手伝っている。
沼澤は文楽にはついぞ足を運んだことがないが、格闘技の中でもケージファイトに目がなく、少ない稼ぎからチケット代を捻出しては最前列で観戦するのが唯一の贅沢だった。
横井とは何度となく顔を合わせているうちにどちらともなく声を掛け、雑談に興じているうちにいつしかお互いのことを話すほど気心を許し合う関係になっていた。
沼澤は入船温泉で人形遣いから話を聞いて以降、どうしてももう一度老舗ホテルのあの部屋に戻らねばならないと思ったが、そこで起こるであろう怪奇現象に、自分ひとりでは到底太刀打ち出来ないと考えた。
和製エクソシストといえば、祈祷師ということで横井に同行を頼み込んだ。
「聞くからに相当ヤバい案件みたいだから祈祷料は貰うよ。」
幸い横井は快諾してくれた。
(旦那が呪われた証拠でなくて申し訳ないが、確たる真実を突きつければ依頼人も納得してくれるに違いない。)
沼澤はちゃんと納得させれば、逆ギレして前金を返せという話にもなるまいと思った。
翌日の午後、事態は急変した。
依頼人である羅刹太夫の妻、林田雅子が不慮の死を遂げたのだった。