【短編小説】 ユニコーンFM
ツノがある東館がとうとう動く。西館の面々は戦々恐々としていた。
東館は別名でユニコーンと呼ばれている。ツノのようなポールはユニコーンアンテナと言い、家庭用ポール型の地デジアンテナだ。
建物自体は全く同じ作りの東館と西館で、何故その付属物のみが異なっているかと言えば、その用途に由来する。
ここは関東の片田舎にある全寮制専門学校とその寮である。東館は女子寮で、西館は男子寮。寮生は常に男子の方が若干多い。授業はその中央やや南側に配された本館で行われている。
アニメやCGの専門課程をもつITデザイン科とアナウンサーや声優の養成課程をもつ声優タレント科がある。
昨今の少子化の時代に、学校側も集客に余念がない。
声優タレント科を創設したばかりの頃に、女子学生の入校希望者を増やすことに熱心だった経営者が、表向きは学業のためとしつつ、寮設備の充実を図ったのだった。
その東館では、かつてミニFMが開設されていた。微弱電波を使用した無免許で開設可能な近距離でしか聴けないFMラジオだ。
今は利便性の都合で、インターネットラジオを利用して引き継がれている。
その女子寮ラジオはユニコーンFMと命名され、メインDJはコミュニティFMのDJへの登竜門となっている。
そのラジオで、今夜からバレンタイン特集と題した告白メッセージの紹介が始まるのだ。
つまり、学内のダンスパーティの前哨戦とも言えるこの放送を、西館の面々は固唾を飲んで待ち構えているのだった。