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ポール・セザンヌ / メトロポリタン美術館
カゾク
感情を表に出さない、冷めた子どもだった。自分の主張を通すよりは、まわりの大人の反応を見ながら、期待に添った振る舞いをするほうが得意だった。
テレビで流れるマイホームや車のCMの中では、決まって家族が4人揃って映っていた。父、母、兄、妹。あるいは、姉と弟。みんなで楽しそうにバーベキューなんかしながら、白い歯を見せて笑っている。
幸せそうな家族。ディズニーランドにでも住んでいるのではないかと思えるような。本当にこんな家族がこの世に存在するのだろうか。マイホームやピカピカの新車が彼らのような家族のために用意されているのであれば、私には一生縁がないに違いない。小さな胸に抱いていたその思いは、暗い予想というよりも強い確信に近かった。
決して不幸だったわけではない。団地暮らしのつましい生活ではあったものの、祖母を含めた家族5人で食べるものに困ったことはないし、遊園地へ出かけたこともあった。よその家族に比べればレジャー体験ははるかに少ないが、だからといって親を恨んだりはしなかった。「よそはよそ、うちはうち」が母の口癖で、うちはそういう家族なんだと、ただそう思っていた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。