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(無料)サンドイッチの謎/漁場

ゆうべ遅くに新年会から帰宅したウナさん。
酔っ払うとコンビニで、バタピーや菓子パンなんかを買う癖がある。
ゆうべも小さなビニール袋を手に下げて帰ってきた。中を覗くとサンドイッチが2個。

服を着替えたウナさんは、リビングでテレビを見ながら舟を漕ぎ始めた。私はサンドイッチを冷蔵庫のトレイに2つ並べてニンマリした。1つは私の明日の朝食になるのだ。

ふだん私は朝食をとらない。なぜなら、食べたが最後、気力と体力が途端に萎えるからだ。胃が膨らむと頭がぼうっとする。1時間は休憩しないと、どうにも使いものにならない。

朝型の私は午前中がもっとも冴えている。昼食までの間、なるべくフルチャージで働きたいので、朝はコーヒーのみである。

とはいえサンドイッチは別。大の好物だから。頭の冴えと引き換えてでも味わいたいほど、私はサンドイッチに目がないのである。

冷蔵庫に並んだ2つの三角パックを再び眺め、ほくほくして床についた。

一夜開けた今朝。コーヒーを沸かしに台所に入ると、シンクの上にサランラップの箱が置いてある。ははーん、と私は合点がいった。夜中に小腹のすいたウナさんが、自分のサンドイッチを先に食べたのに違いない。

三角パックの中に2切れ入ったうちの1切れを食べ、それで満足して、残ったほうをラップに包み、冷蔵庫に入れたんだろう。ウナさんは少食なのだ。

レタスがたくさん入ったのと、ハムが重なったの、さてどちらが私のサンドイッチかしら。ウナさんは菜っぱをあまり食べないから、おそらくハムを選んだはず。20年も一緒に住んでいれば、相手の行動なんて手に取るようにわかるのだ。

コーヒーが沸いた。
ワクワクしながら冷蔵庫の扉を開けた私は、驚愕のあまりその場に固まった。

サンドイッチが……

消えている……!!

ゆうべ確かに2つ並べて入れたはずのサンドイッチが、どこにもないのだ。

いったいなぜ……!?

ゴミ箱に、無惨に引き裂かれた三角パックの抜け殻が2つ分入っているのを、私は見た。

リビングでいびきをかいているウナさんの腹が視界に入る。上下に波打っているあの中に、サンドイッチが4切れ収まっているのだろう。

……少食どこ行った?

……サランラップは何に使った?

20年一緒にいたところで、わかり合えないのが人間なのだと思い知る。
凍えるような冬の朝であった。


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