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人生のシナリオ
これはひとつの考え方です。
この考えに出会い、まるごと受け入れることにしたら、生きるのがずいぶん楽になりました。
なんでこんなに理不尽な出来事が私の身に起きるんだろう。
どうしてあの人は物事が順調に運ぶのだろう。
あの人と私でなにがそんなに違うんだろう。
そんな思いでモヤモヤしたとき、すぐに答えを出してくれる考え方です。
私はネットで見つけました。失意のどん底にいたときに。
とてもシンプルな童話です。聞いたことがある人もいると思います。
広い宇宙の中に、それは美しい場所があります。
あなたはそこにいて、いつも幸福に満たされていました。
あなたはただの光の粒です。
「感情」も「肉体」も持っていません。
あなたはある日、地球という星のことを知ります。
その星へ行くと、「感情」と「肉体」を持つことができるといいます。
あなたは地球に行ってみることにしました。
その星でどんなふうに過ごすのか、あなたは自分で決めました。
あなたは地球に生まれました。
そしていま、あなたの書いたシナリオ通りに生きています。
「このことをただ信じてみてください」
とネットに書いてありました。
神様の存在と同じように、この話が真実かどうかを、誰も証明することはできません。ただ、信じてみてください、と。
「心から信じることができれば、もっと楽に生きられます。信じるのにお金は必要ありません。信じてみて、もしうまくいかなかったら、こんな話は忘れてください。まず信じてみる。そのことであなたが損をすることはなにもありません」
*
私はその頃、「もう二度と漫画は描かない」と決心していました。
連載権を勝ち取るための、ウェブ漫画サイトのレースで惨敗したのです。
毎週投稿していた作品が編集部の目にとまり、参加を打診され、大喜びで挑んだレースでした。
「毎週カラーで8ページ、10週連続投稿すること。読者がつけるハートの数の多さで、上位10作品に公式連載権を与える」
自分の作品が選ばれることを、信じて疑いませんでした。結果は22位。30人中3人が途中で脱落し、私は最低ラインの10位にも遠く及びませんでした。
連載中に寄せられたコメントのいくつかに傷つきながら、中盤以降はもう決して追いつけないほどの大差をつけられ、それでも原稿料をいただいていたという理由から、最後まで描き続けました。
まるで公開処刑に遭っている気分でした。描けば描くほど「おまえの漫画はダメだ。価値がない」と言われているようでした。圧倒的な敗北に涙も出ず、「もう二度と漫画は描かない」とそれだけを決めていました。自分の心を守るために。これ以上傷つかないために。
あなたは地球に行ってみることにしました。
その星でどんなふうに過ごすのか、あなたは自分で決めました。
あなたは地球に生まれました。
そしていま、あなたの書いたシナリオ通りに生きています。
自分で書いたシナリオ通りに生きている。いま、この地球で。
「これをただ信じてみてください」
ただの光の粒だった頃。それは生まれたての赤ん坊と同じだそうです。
なんの価値観も持たない。善悪も知らない。
「地球という星で、私はこんな体験をしてみたい」
その思いだけでシナリオを書きました。
「漫画家デビューをめざした初めてのレースで惨敗。大勢の前で恥をかく」という設定をしたのも私なら、「その半年後、懲りずにまた漫画を描き始める」とシナリオに書いたのも私。
なぜ「レースで優勝し、華々しいデビューを遂げる」と書かなかったのか。たぶん、「挫折」という感情を体験してみたかったのでしょう。深く傷つき倒れたあと、「再び立ち上がる」という体験もセットで。
*
生まれる前に自分でシナリオを決めてきた。
突拍子もない話です。信じない人が大半でしょう。
私は信じてみました。そうだったらおもしろいな、というノリで、信じました。どんな酷い目に遭ったとしても、自分でそう決めたのなら仕方ない。辛いとか苦しいとかいう感情を知らなかった自分が、その苦しさを体験したいと思って設定したのだとしたら、誰を責めるわけにもいきません。
「なぜ自分だけがこんな目に」
その答えは「体験したかったから」。
事実かどうかは知りません。
ただの、ひとつの考え方です。
私は信じ、楽になりました。
50年前の今日、私は地球に生まれました。
地球時間で50年以上生きるというシナリオを書いているようです。
この先のことはわかりません。
先日49歳という年齢で応募した漫画新人賞の結果はどう出るでしょうか。
「遅過ぎるデビューを果たす」と書いたのか、「またも落選。めげずにチャレンジする」と書いたでしょうか。
これまでのシナリオに、私はおおむね満足しています。なかなか愉快な人生です。生きるのにプロはいない。誰の人生も練習です。
先の童話を信じていると、もうひとついいことがあります。
広い宇宙の中に、それは美しい場所があります。
あなたはそこにいて、いつも幸福に満たされていました。
この地球での体験が終わると、そんな素敵な場所に帰ることができます。
シナリオの最後の余白が、私の目にはとても輝いて映ります。
*
嶋津さんの企画に寄せて。
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