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五感の届く範囲で

座右の銘というほどではないが、好きな言葉が2つある。

1つは、"Don't think. Just feel."
2つめは、"Life is short."

どちらも英語なのは、私にとって耳触りがいいから。日本語で「考えるな、感じろ」「人生は短い」と言われると、少し強く聞こえる。

事務員として働いていた頃、あるワークショップに参加した。講師から「最近感動したことは何ですか?」と質問され、私は言葉に詰まった。「印象に残った風景でもいいですよ。空の色とか小鳥の鳴き声とか」講師に助け舟を出され、私はますます縮こまった。何も思い浮かばない。講師はしばらく待ったあと、隣の人への質問に移った。

そのあとの講義の内容を、ほとんど覚えていない。私はひどいショックを受けていた。最近感動したことが何も思い浮かばない自分に。家と会社との往復の道中で、空ひとつ見上げてこなかった自分自身に。

このことがきっかけとなって、私は身近な自然に目を向けるようになった。空に浮かぶ雲、生垣の葉っぱ、雑草にまぎれて咲く小さな花。見ているうちに、四季の移ろいが感じられるようになった。桜が散ったあとの新緑、塀を這うカタツムリ、夏の夕暮れに飛び交うトンボ、日の当たる順に色づく山の木々、蝋梅の香り。いま近所では木蓮の花のつぼみが膨らみ始めている。あるいはコブシかもしれない。

頭を空にする時間が少しずつ増えていった。代わりに熟考する機会が減った。一つの考えをいつまでも握りしめず、ぱっと手放す癖がついた。考えずに感じる。過去をありありと感じることはできない。だから自然と「今」を意識するようになった。今の自分と、見たり聴いたり触れたりできる身近な範囲が私のすべて。

人生は短い、という言葉は、こうして生きる理由にもつながる。

Don't think. Just feel. Life is short. 

命を感じよ。

私の生きている実感は、いつもそこにある。



最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。