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食道にありがとう(ほぼ無料)

先月末、ウナさんが表彰されました。

「禁煙達成認定書」。35年に及ぶ喫煙習慣に、どどんと終止符を打ったのです。

あ、ウナさんとは相方のことです。ウナギが好きだからウナさん。「相方」から呼び名を変えました。以後よろしくお見知り置きを。

この表彰状を病院から持ち帰り、自慢げに私に見せたあと、ウナさんがこう言いました。

「キミのブログに載せたら?」

・・・・・・へ?

「なんかいっつも書いてるやつ、あるだろ」

あるけど、え? 載せていいの? てか、禁煙に至るまでの過程についても、書いていいの?

「いいよ」

マジか。

公にされるの嫌がるだろうと思って「ほろ酔いエレジー」というサブスクマガジンを作り、購読してくださったみなさんに私の心中をめそめそ吐露していたんだけど。

「秋野暢子さんも同じ病気だって公表したし。いまがタイミングじゃない?」

そうかい?

それならば、ということで、本人の許可が出たので、ウナさんが禁煙した経緯を書くことにします。

・3月:年に一度の人間ドックで、喉と食道に腫瘍が見つかる。
・4月:病理検査の結果、がんであることが判明。ステージ1。禁煙開始。
・5月:食道全摘手術を受ける。
・6月:退院。
・7月:食べる練習中(リハビリ)。
・8月:咽頭がんを内視鏡で取る予定。

以上のような経緯でして、現在も絶賛リハビリ中なわけですが、ウナさんはわりと元気です。

秋野暢子さんのブログを読むと、どうやら食道は温存し、放射線治療を選択された様子。ウナさんの場合は、医師からの勧めと本人の意志により、がんを器官ごと取りました。

食道を取る手術ってどんなのか、私なりに調べてイラスト描いてみましたよ。

食道亜全摘術(「亜」ってどういう意味だろ?)

①食道って25〜30cmもあるんですね。
②その食道全部と胃の上部を切り取って、
③残った胃を縦にぐいーんと伸ばし、喉に縫いつけると。ウナさんはいまこの状態です。

手術は正味12時間かかりました。首の下と胃のあたりをズバッと切られ、左脇腹に5箇所ぐらい穴を開けられ、「4人の医師&アームが6本ほどもあるでっかいロボ」が協力して施術したあと、ICUに4日間入りました。

10本近いチューブがつながれた体でベッドの上に固定状態だったわけですが、3日めぐらいに(やることなくて暇だなあ)と思ったらしく、持ち込んでいたホラー文庫本を1冊読了し、院内をざわつかせたそうです。

個室に移ってからは最速スピードでチューブがどんどん外れていき、一般病棟に入るとベッドが小さいのが嫌で主治医に回復を猛アピールし、予定日より10日ほど早く退院しました。

さあ大変。それまで看護師さんに全部お任せだった食事を、私が用意せねばならん。
「腸ろう」と言って、お腹に穴を開け、そこからチューブを小腸まで入れて栄養剤を流し込む、点滴みたいな栄養摂取法があります。1パック400ccを流し込むのに2時間かかる。それをウナさんは1日2回やりました。

腸ろうをいつまでも続けるわけにはいかないので、できるだけ口から食事をするよう努力が求められます。食道がなくなり、胃が細長く伸ばされているウナさんには、ここが最大の難関です。と言うのも、食道には食べたものをポンプみたいに胃へ運ぶ役割があり、胃の上部には入ってきたものをドロドロに溶かして消化を助ける機能が備わっているのですが、その2つがまるっとない。

食べたものが自然に胃の中へ落ちていき、消化されやすい状態で腸まで届くように、自分で工夫する必要があります。具体的に言うと、口の中に入れた食べものを歯で噛んで極小サイズにし、ドロドロになるまでよく咀嚼してから喉へ落とさねばならないわけです。この作業を怠ると、食べものが喉に詰まってしまったり、誤って気管に入って肺炎を起こしたりします(救急車案件)。

縦に長くなった胃は、ゴムのように引き伸ばしているわけではなく、細かい血管や神経を切って人為的に筒状にしてあります。胃管再建と呼ばれ、胃に食道の役割を兼ねさせているのですが、ポンプの役割はもともと胃にないし、必要な神経を失っているため収縮もしません。特に術後半年ぐらいは消化機能ががっくりと落ちているので、口から食べたものが腸に届く速度が早い。口の中でよく噛んでおかないと、きちんと消化されないままの食べものが腸へ行き、下痢を起こしてしまいます。せっかくがんばって口から取った栄養が、流れてしまっては意味がない。

退院して1週間めの食事内容です。

身長177cm、体重68kgの人が、お食い初めレベル。これを全部よくよく噛んで、ゆっくりごっくん。30分かけて食べるのです。

これまで料理はウナさん任せだった私。この本を買い、豆腐ときのこ類、卵などがよいと知り、ブロッコリー1房を3つに切り分けるなどして、おままごとのような食事を毎日3食作りました。

やがて1日2回だった腸ろうが1回に減り、主治医の判断でお腹のチューブが外され、現在はモスバーガー1個完食できるまでに回復しています。タバコは完全にやめたけど、同時にやめていたお酒は少し飲むようになりました。

ゴロンと横になったままポテチ1袋食べたり、舐めていた飴をうっかり飲み込んだりしても平気でいられるのは、食道が強いポンプ力で胃に運んでくれるからなんですよ、みなさん!
ポテチのかけらが気管に入らず、胃からも逆流しないのは、食道の入り口と胃の入り口に2箇所ある抑止弁が働いてくれているおかげなんです。

ウナさんみたいにそれらが全部なくなっちゃった人は、毎食集中して噛み噛みごっくんをせねばならず、逆流を防ぐために上体を常に30度以上起こしておかねばなりません。夜寝るときもです。一生続く。

ウナさんはSNS交流をしない人なので、私が代わりに「食道がん患者会」に家族として入っているのですが、みなさん予後にとても苦しんでおられます。それまでなんでもなく食べていたものが食べられず、胃酸の逆流で寝られず、消化不良による吐き気や下痢と闘う日々。見た目では判断がつかないので、辛さがわかってもらえない。

術後に平均7kg落ちると言われている体重を、ウナさんはばっちりキープしています。一度に食べられる量が少ないので、合間にウィダーインゼリーを(10秒チャージでなく10分かけて)飲んだり、さほど好きじゃないカステラなどの甘味も食べたりして、痩せないように努力してます。

首まわりのリンパ腺を取った影響か、咳がよく出るのでのど飴が欠かせない。時間のかかる食事でエネルギーを消耗し、疲れやすくなっていますが、秋のゴルフコンペには出たいと筋力トレーニングを始めました。
咽頭がんを取るため、来月また一週間ほど入院するので、そのためにも体力をつけねばなりません。

こうやって一気に文字にすると、どえらい壮絶な感じがしますが、がんばっているのはウナさんで、私は単なるサポート係です。同人誌作れるぐらいには、時間にも心にも余裕があります。

ウナさんは2年前に大腸でがんが見つかり、そのときは日帰りの内視鏡手術で済みました。食道と咽頭もいまは進行性ではなく、今後は定期検診で見ていく状態が続きます。

私は私にできること、やっていきます。
秋野暢子さんのことも心から応援してる。

えいえいおー!


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