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エリック・テンハグ 狂気と知性の狭間で 【最終章 GUILTY】

七つの大罪








欲望や感情。それはこの世の中における罪に至る要因。








Guilty

■Unexpected results

1勝1分4敗


王国は跡形もなく崩れた。5シーズン前に見せた狂気さの中に垣間見れる知性を感じる勇敢なサッカーは、そこにはなかった。我々がテンハグに期待したのは、一見荒くれるかのような狂気だが、そこに合理性を持ち合わせている狼の群れだ。しかし、実際にピッチ上で表現されていたのはどうだったのだろうか。



勝負の2年目。エリック・テンハグの元には大型補強のビッグプレゼントが用意されていた。

まずは、知性を持ち合わせていながらハードワークも厭わないメイソン・マウント。アヤックス時代の教え子でもあり、昨シーズンのCLファイナリストの一員であるGKアンドレ・オナナ。そして補強の目玉に、CFのラスムス・ホイルンドを獲得した。



ビルドアップの安定性を計る意味でオナナはグレードを上げてくれる存在。CBが孤立しやすいビルドアップの設計上で、デ・ヘアとは異なり、自らが起点になれるGKの存在はテンハグが求めていたものだ。
しかし、実際はヴァランとリサンドロ・マルティネスのけがによる離脱でCB陣との融合性が図れず。また本業であるはずのシュートストップでもミスが多くみられ、実力を疑われるまでになっている。

ブルーノ・フェルナンデスの副官にふさわしい人材としてのマウント。しかしシーズンインするとほぼ離脱。加入していたことすら忘れられているくらいの存在感ですらない。




12月12日。オールド・トラッフォードでのバイエルン戦に敗れたユナイテッドは、見るも無残にELすら逃し、欧州の舞台から早々に去っていった。




■合理性なき狂気

テンハグの哲学とは何か。


今季のユナイテッドを考察するうえで、テンハグが赤い悪魔から去る前に。改めて考えるべきだ。


ユナイテッドにおけるキーパーソンは、全ての機能を操るブルーノ・フェルナンデスの存在が大切だ。ボールポゼッションにおけるブルーノ・フェルナンデスは、ビルドアップにおいてはどの立ち位置なのか。

後方は基本最少人数。相手からのハイプレスに対して全力で受けて立つ。

相手が数的同数になったところでワンビサカが内側へ。ダロートとの違いはここだろう。マズラウィと違い器用なタイプではないので、あくまでパスコース作りと数的優位を作るための移動。これによってボランチのマクトミネイが上がり、ブルーノ・フェルナンデスへのマークを分散できる。

マクトミネイが前線まで走ることでファイナルサードでの攪乱作戦に入る。これはアヤックス時代にファン・デ・ベークがやっていた役割。ブルーノ・フェルナンデスは中央に空いたスペースを突きボールを受ける。

ブルーノ・フェルナンデスはビルドアップのあくまで中心だ。出口ではない。中盤の選手がサリーダで降りて受けに来るのと同じで、落ちて来ずむしろ高い位置でビルドアップを行うという発想だ。


出口はポジショナルプレーと同じくウイング。ブルーノ・フェルナンデスが高い位置で起点となり。ガルナチョとアントニーに預ける。

出口兼フィニッシャーとしてのウイングは、かつてのバルセロナの哲学におけるウイングストライカーと化してゴールに迫る。


ここまではむしろ合理的なサッカーに見える。しかし、これを実際のピッチ上で披露するのには数多くの困難に立ち向かわなければならない。



まずは消耗が激しいというところ。
今季のテンハグを悩ませているのが怪我人の多さ。守備陣を中心に離脱者が多いのは、後方の幅広いエリアをカバーする範囲が広すぎること。そして前線のポジトラの足並みが揃わなければ、一気に押し返されてしまう。負担が大きすぎるのは、一向に改善できていない。


続いて前線の人数飽和。
ブルーノ・フェルナンデスに預けウイングに届くまではいいが、ゴール前には人数が多すぎる。
まずはマクトミネイにホイルンドとゴール前には味方がいるので、当然その選手へのマーカーもいる。特にマクトミネイはブルーのフェルナンデスをフリーにするために引き付けたマーカーがゴール前に存在するので、肝心のフィニッシュワークにおいて結局は崩さなければならない壁が1枚増える。
アヤックスでも、ツィエクやダビド・ネレスがゴール前に迫っていた。ただこの時はタディッチがゼロトップとして振舞っていたためスペースは存在していた。しかしユナイテッドには本格派ストライカーのホイルンドが存在する。ウイングがフィニッシャーとして役割を終えるにはスペースがなさすぎるのだ。


ただテンハグは本格派ストライカーを欲していた。

イメージはテンハグがバイエルンの時に仕事をしていたレヴァンドフスキだろう。ウイングが出口となり、フィニッシャーはレヴァンドフスキに委託する。ウイングとトップ。この3役がゴールに迫れば破壊力を生み出せる。前線でのポゼッションに拘るテンハグからしたら、出来たら理想だろう。しかし、そこに合理性はない。ただカオスが生み出されるだけだ。





■ホイルンドが起用される理由と矛盾

前年は、ラッシュフォードが務めていた。またはマルシャルも。ただ、いずれも9番ではない。

9番を使わないことで、スペースメイクとチャンスメイク、そしてネガトラにおける強度アップ。得点よりも黒子役だ。
しかしラッシュフォードにはネガトラでテンハグが求めているレベルにない。相手にコースを限定できず、背後の味方までのプレッシングはオーガナイズできない。


ユナイテッドにおける1トップはデリケートな問題だ。
ラッシュフォードの得点力は魅力的だが、テンハグの理想を追うのには不適合な要素が強い。
ホイルンドは、ネガトラでのインテンシティが魅力的である。コースの限定、プレッシング、ポジトラでの起点役。


プレミア15節チェルシー戦から

GKへの限定プレス。追い方で既にボールの行き先を先読みできる。

ダロートがカット。ポジトラに移る。

ホイルンドへ。今度はショートカウンターの起点役。黄色丸のマクトミネイが既に走り出している。

ただマクトミネイはデコイ。本命は大外のアントニー。

あとはフィニッシュへ。


ホイルンドは、テンハグの求めるCFのタスクを遂行している。


しかしだ。ある種、テンハグには矛盾点が生じる。実際の数字にも表れているが、ホイルンドの得点数はプレミアではわずかに2。しかも初ゴールは先週の話だ。本来は得点源として獲得したはずの若きストライカーに、得点できるだけのシステムを作れていない。単純に、アヤックス時代のタディッチがやっていた役割をそのままホイルンドに託しているだけだ。つまり、ストライカーとしてのタスクが存在しない。


テンハグのスタイルはFWが点を獲りにくいスタイルでもある。FWはとにかく黒子役だ。
テンハグがホイルンドを求めたのは間違いなく得点力ではあるし、クラブ全体でそれを求め続けていた。しかし、戦術的に大きな変化はなく、ただこれまでやって来たことにホイルンドを当てはめてみただけ。戦術の幅が生まれるわけでもなく、ただの宝の持ち腐れとなっている。




■必要なのは一匹狼の集団か、群れを引き連れる一匹の狼か

エゴをむき出しにする一匹狼を、テンハグが構想に入れることはない。しかし、狂暴な狼は必要だ。

狼は将軍の習性を持っている。リーダーだ。狩りに行くのに戦略を定め、そのグループの指揮を執るリーダーが存在する。



ユナイテッドは1つの大きな選択を迫られている。

テンハグに見切りをつけ、再びリセットボタンを押すのか。それとも哲学を創造するためにテンハグ続投するのか。

ほぼほぼ後者だろうが、シーズン終了後の成績次第ではオールド・トラッフォードを去る可能性も否定はできない。確固たる戦術の軸はあっても振れ幅は大きくない。テンハグの哲学で絶対的王者に戻れる確信は、今のところ根拠なく持つことが出来ないからだ。
ならば、変えるなら早めに尽きる。ずるずる行ったところでお互い時間を浪費するだけ。


過去、デイビッド・モイーズにジョゼ・モウリーニョ、オーレ・グンナー・スールシャールと違い、明確な哲学を持ち根ずかせようとする姿勢はある。そのためなら選手の補強や放出に迷いはない。


しかし、明確な哲学はあっても、実際のピッチ上で見られる光景とは矛盾点が生じるのもまた事実だ。肝になるプレッシングも全体が完全体となって統率できているわけでもない。



決して期待をしているわけではない。だがテンハグだからこそみたい景色もある。見たいのは一匹狼の寄せ集めでもなければ、犬の群れを引き連れる一匹の狼でもない。集団と化した狼の群れのような、狂気に満ち溢れたオーガナイゼーションだ。





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