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欧州最新戦術トレンド part3 「SBのCB化」

事の経緯



徐々に増えてきたSBにCBを置くシステム。なんですけど、SBに置くことが出来るCBは誰でもいいというわけではなくて、攻撃センスに優れるCBということです。


「だったら守備的SBでいいじゃん」


まぁ、言ってしまえばそうなんですけど、なんでCBが置かれるのか。まずは軽くSBのタイプの歴史から振り返ってみましょう。





SBは全てはここから始まった

■攻撃型SBの始まり

SBとは、当たり前ですけどDFです。最近この感覚が抜けつつあるんですけど、まずは最低限守備ができていないといけないです。

戦術というモノが具現化される走りは南米です。4-4-2のシステムはブラジルの発祥と言ってもいいでしょう。というより、現在における戦術的影響力は欧州のインスパイアというより南米発が多いです。可変システムも「アシンメトリー」という左右非対称システムはジーコ、ガリンシャの時代のブラジル代表までさかのぼります。このアシメこそが攻撃型SBを生み出すきっかけになったでしょう。


オーバーラップするSBと言えば、イメージはこの2人ですかね。

カフー
ロベルト・カルロス

えげつない勢いでサイドを駆け上がり、クロスを上げて攻撃に厚みをもたらす。これがSBの歴史を変えた瞬間ですね。

その後は、ブラジルが中心にはなってきますがダニ・アウベスにマルセロ。欧州に目を移せばアシュリー・コールにジャンルカ・ザンブロッタ、フィリップ・ラームと受け継がれてきています。


ただ、今思い返してみたんですけど、攻撃型SBで名前が挙がるのはほとんどがブラジル人なんですよね。今のサッカー界でもSBはブラジル人が務めているチームは実は多く、欧州出身のSBは堅実なプレーをする選手の方が割合的には多い。超攻撃的なんて言われていたのは誰だろう。ザンブロッタとかジョルディ・アルバ、ダビド・アラバ、アルフォンソ・デイビスみたいな元々ウイングだった選手をコンバートさせたりとか、トレント・アレクサンダー=アーノルドも一応コンバートされてはいるか。アウベスとかマイコンみたいな「初めからSBですけど」のような生まれ持った攻撃型SBは少ないのか?

戦術によって守備も強み出たなんてSBは、例えばカイル・ウォーカーとかエリック・アビダル。ダニ・カルバハルは経験値を得るごとにオールラウンドに堅実なSBになっていきましたね。ただ、このポジションはブラジルから影響を受けているポジションであるのは間違いないです。



■オーバーラップは時代遅れ?

SBにオーバーラップさせるのは、攻撃に人数を掛けるので厚みは出ます。またパスコースも増えます。ここまで見ればいいことばっかじゃん?なんですけど、守備に目を通すと、その裏のカバーはどないすんねん!となって、例えばマルセロは裏がセルヒオ・ラモスでなければ守備ザルと言われ続けたように、CBのカバー能力が半端でないとリスクが大きい。
それに、戻るったって100mの往復を何回繰り返せばいいんじゃい!となるわけです。100mオーバーラップして駆け上がったのに、ネガトラでまた100m戻らなくてはならない。その100mを一瞬で戻れなんて無理難題です。

これを何往復も繰り返すかと思えば大変です。アシメで肩上げするにしても、上がるSBは、

前回最後にリバプールのアーノルド問題に触れましたが、結局はこれだけの移動距離に2レーンを跨がなくてはならないということは守備が得意でないにしろかなり負担になることです。
このように、すぐには戻れない。ネガトラに問題を抱える選手なら尚更であれば、アーノルドをすぐ近くのボランチに偽SB化するのもうなずけます。SBの負担が、デメリットがメリットを上回ってしまい上がる理由がなくなります。




偽SBの登場

■ウイングの復活

part1にて偽SBについて語ったので割愛しますが、5レーンの具現化が進んだことによるウイングの重要度が増したことで、SBの大外オーバーラップが求められなくなりました。要は、オーバーラップをすることがウイングの仕事を奪うことに繋がり、またカウンターリスクを生むことにもなる。これが当初の計画に合ったバイエルンでの偽SB化計画です。

それに、偽SBとしての中盤化は実は理に適ってる理論でもあって、まず守備としては、4バック中SBはフィジカルに優れているわけではないのでココにロングボールポーンと放り込めば簡単に起点が作れます。あと、攻撃型SBが増えたことによって、ウイングがここのタイマン勝負に勝てる計算がついたことも大きいです。つまり、相手からすればSBこそターゲットとして相応しい場はない。
攻撃でも、SBは45°の視野しかないので、プレスすればパスコースは縦かCBの2コースしかない。プレッシングの嵌め処でもあるのです。

オーバーラップというとちょっと表現としては正しくはないですね。対面する強力なウインガーを抑えられる守備力と、相手プレスを剥がせるビルドアップ力が求められたのです。



■アラバとカンセロ

偽SBとして認知されたのがダビド・アラバ。元々トップ下やウイングが本職であった当時19歳の若武者は、ユップ・ハインケス率いるバイエルンのチーム事情によって左SBにコンバートされます。

バイエルン時代のアラバ

当時のバイエルン左SBは、フィリップ・ラームの右SBコンバートによって手薄だったんですね。消去法で出来そうなのがアラバだったってのもあるんですけど、ハインケスの時はあくまで補強されるまでの一時的なコンバートという位置づけでした。
そのアラバの人生が大きく変わったのがペップ就任による本格的な偽SB。

「疑いなく、アラバはセントロカンピスタ(中盤の選手)としてプレーできる」
この発言の意味は、セントロカンピスタとしてのアラバを考えていたのではなく、中盤でもプレーするサイドバックのアラバを考えていたのだ。どのようにこのアイデアは生まれたのか?それは、かなり前からすでにペップのプレーカタログの中にあった。適切な瞬間が来るまで眠らせていたのである。

ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう
著者マルティ・パラルナウ 訳羽中田昌・羽中田まゆみ
発行 東方出版
196項より引用

アラバによる偽SBの成功と戦術的革命を生んだ後、マンチェスターシティに移ったペップの新型偽SBこそ、カンセロ・ロール

ジョアン・カンセロ

アラバの時と違うのが、アラバはウイングのロベリーへのパスワーク確保とトランジション強化が主な理由でした。

カンセロの場合は戦術的に中心としてのピースであって、SBでありながらボランチ、トップ下、ウイングと4つのポジションを「+1」としての役割が与えられて革命を起こしました。


攻撃的CBの登場

■3バックの復権とハーフディフェンダー

5レーン登場によって3バックの復権と役割が見直されるようになりました。具体的に言うと、3バックの両脇であるストッパーに攻撃性能が求められるようになったのです。
オーバーラップする、その時に残る人数としては4バックと変わらないのですが、フィジカルのある本職CBに攻撃性能があることに意味があるのです。

3バック復権について、前回コンテ・チェルシーを紹介しましたが、その時に3バックの一角で起用されたのが本職SBのセサル・アスピリクエタ。

5バック化するときの両端となるWBは、ヴィクター・モーゼスのようなウインガーが起用されつつありました。4-3-3に置き換えると、WB=ウイング、ストッパー=SBがポジトラ時における役割になりつつありました。

ストッパー革命が本格化したのが2019年です。プレミアのシェフィールド・ユナイテッドによる「3バックオーバーラッピング」。

ポール・ヘッキングボトム

堅守を維持したまま超攻撃的サッカーを作り出したポール・ヘッキングボトムは、守備時は純粋にCBでありながらも、攻撃時はCBとは感じさせないまるで本職SBかのような起用に攻撃型3バックを形成しました。この、オーバーラップするSBかのようなCBを後に「ハーフディフェンダー」と名付けられました。




■攻め上がる攻撃型CB

3バック復権の裏付けとして、これまではWB=SBでした。これがWB=ウイングになったことで、守備比重のあった3バックが攻撃的オプションとして見直されたことです。前回のワルテル・マッツァーリでも紹介しました通りです。守備比重が重いことで、前線が力強くないとポジトラで押し返せない。それでも5レーンを封鎖するのに大外は最低レーンを埋めるだけでよくなった。オフェンシブなカードをここに切ることに躊躇する必要がなくなったのです。

WB=ウイングからストッパー=SBになったことで、守備に強みがあるCBという選手が攻撃力もあるという夢のあるタイプが増していきます。


元々いなかったわけではないです。
例えばドリブルすることで中盤にボールを運べるオールラウンダーなCBの走りは、フランツ・ベッケンバウワー。そして元メキシコ代表のラファエル・マルケス。

ラファエル・マルケス

偽SBが当たり前になった時代における新型CBは、中盤へボールを運べるビルドアップに優れたCB。マルケスは現代型CBのモデルです。

CBでありながらドリブルのスキルもある。例えば現マンチェスター・ユナイテッドのリサンドロ・マルティネス。

アヤックスの時はSBにボランチもやっていました。
あとはセビージャで名を上げることとなるジュール・クンデ。

セビージャ時代

他で言うなら、ハーフディフェンダーとして象徴的なプレイヤーでもあったアントニオ・リュディガーにアレッサンドロ・バストーニ。

レアルではその攻撃力を買われてSB起用も
インテルの有望株

時代の流れによってCBに攻撃性能が求められるようになった。これが現在におけるSBのCB化に繋がります。



新型CBの偽SB化

■ディフェンダーの多重タスク化

「でも守備は大切だろ!」

そうです。結局はそこです。守備に強みあるSBだと不安なのが、高さとかフィジカル的な部分が大きく、かつポジトラにスムーズな移行ができるかといったところ。

守備が見直されたキッカケも5レーン封鎖であって、オフェンシブな選手を置いても大丈夫にはなったものの、そこには当然リスクも付きものなので、組織構造は変わることとなります。

現在では徐々に増えつつあるCBのSB化。シティが4CBという布陣を築く前にアーセナルが冨安健洋がSBをやり、ベン・ホワイトも続く。

冨安とホワイト

クンデもバルサに移籍したことでラテラル起用となり、フランス代表でも同じ使い方としてワールドカップに出ました。

5レーン封鎖における4バックでの対応にスライドができるかどうかは戦術として必須スキルです。5レーン封鎖における5バック対応は、それぞれのレーンに1人ずついるからオフェンシブな選手で対応できるのであって、4バックの場合は1つレーンが埋められないのでディフェンススキルが十分な選手でないといけないのです。

つまり4バックにおけるSBに求められるスキルは、守備力とビルドアップ能力が最低限必須スキルとなります。プラスとして従来のオーバーラップができればみたいな。



■4バックでの5レーン封鎖

SBにCBを置くチームはたくさんあります。
例えば2014年ワールドカップ王者ドイツ代表とか。2010年もジェローム・ボアテングをSB起用してましたね。

あと2018,2022年ワールドカップのフランス代表。右SBにバンジャミン・パヴァ―ルが起用されてましたし、2022の当初は左はリュカ・エルナンデスでした。

このケースは、短期決戦ということもありましたので主に守備だけでした。本格的にタスクが課せられるようになったのがペップによって。アルテタに関しても冨安を起用し始めたときに偽SBを求めていたかどうかまでは、おそらくないでしょう。


ペップが4CBにしたのも5レーンに苦しめられたからであって、カンセロが外されたのも、5レーンを駆使して来る相手に対しての解答がカンセロを必要としなかった。


4バックで5レーンを埋めるというのは、シメオネかレスターみたいに中盤から1人落とすことを徹底しない限り無理です。人数的に無理なのでどうしようもない。1番手っ取り早いのは、余るもう1つのレーンは捨てて中を徹底して固める。何が何でも跳ね返す。

シティは、4人のCBに加えてロドリを組み込んで跳ね返すことも仕組みとして作っています。でも基本的にはこれです。4人で5レーンを封鎖なんて無理。どこか捨てる。そのために4人のDFに守備力が求められるのです。カンセロでは絞ることも跳ね返すことも計算は出来ないでしょう。またCBでなくてはならないのも、跳ね返すことが求められているからです。



■ウイングの復活による複雑化したSB

かつてはSBはシンプルな役割でした。DFなので最低限の守備。そして攻撃参加。これだけ。運動量さえ多ければタスクはこなせる。これが当初求められていたSBのタスクです。

ブラジル流のオーバーラップするSBは、サイドハーフが中に絞ることで大外が空くから意味があるのです。2000年代のウイングも、それこそブラジルの黄金期でしたので逆足ウイングが流行っていました。ロナウジーニョ、ロビーニョ、メッシ、ファンペルシー、ロッベンやリベリーもそうですが、彼らが中にカットインするからSBがオーバーラップできた。
それが、ロベリーが大外勝負を戦術的に求められたことでSBにオーバーラップする意味がなくなる。上がったところでウイングの邪魔にしかならないです。


ウイングの復活がもたらした偽SB。そして5レーンの登場。これこそSBのCB化へと繋がるロジックです。





次回予告

最終章。Provoking build up。


Thanks for watching!!




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