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死花-14話-⑥
そうして、賢太郎をはじめ検察と被害者家族会は、殺人と殺人未遂罪。危険運転の罪で、榎戸修二の死刑を求刑。
弁護士側は、あくまでも過失だったと、有期刑を求刑し、裁判は結審した。
「ほんなら、お世話になりました…」
花藤病院の正面ロビー。
看護師から花束を受け取り、藤次と絢音は頭を下げる。
「いや、ホントによかったです。絢音さんの記憶が戻って。後は、審判を待つばかりですね。」
「はい。自信はあります。必ず、僕達の願う審判になると、思ってます。…な?絢音。」
「う、うん…そうね。」
「?…どないした?何や浮かない顔して…まだどっか調子悪いんか?なら、まだ入院しとっても…」
「う、ううん大丈夫!まだ、実感持てないだけ…藤太と恋雪がいないことに…」
そうして涙する絢音の肩を優しく撫でて、藤次は言葉を紡ぐ。
「焦らんでええ。ワシかて同じやったんや。せやから、裁判の判決出たら呉に行こ?2人で新しい土地で、のんびり過ごすんや。な?」
「うん……」
それでも絢音が浮かない顔をするので、京橋はにっこりと笑う。
「何かあったら、いつでも来ていいですからね。どうぞ、お大事に…」
「ありがとう…ございます…」
*
「えっ?!検事正が?!」
同刻、京都地方検察庁楢山賢太郎検事室。
稔から聞いた言葉に、賢太郎は瞬く。
「ハイっす。さっきこちらに来られて、これを検事に渡してほしいって…」
そうして出されたのは、2つに裂かれた自分の辞表と、一通の手紙。
「全ては闇の中。責任は俺が取る。よくやった。」
「検事正…」
いてもたってもいられず検事正室に行くと、安河内がいつもと変わらない涼しげな顔で、荷物を片付けていた。
「検事正…まさか、榎戸の殺人の逮捕状…」
その言葉に、安河内はフッと笑う。
「なに。ちょっと知人の議員に金を積んで、圧力を更にかけただけさ。だが、もし公になれば、結審したとは言え棗君の裁判に支障が出るし、地検にも迷惑がかかる。だから今のうちに、トンズラするのさ。」
「検事正…」
狼狽する賢太郎の肩を叩き、安河内は静かに笑う。
「後は任せたぞ?楢山賢太郎検事。」
*
「はい?!」
「だから、してやって良いって言ってるのよ。再婚。」
同日夜。京都郊外のマンションの一室。
突然掛かってきた元妻の電話に何事かと思っていたら、予想外の言葉が出てきたので、真嗣は素っ頓狂な声を上げる。
「えっ?!…なに嘉代子さん。よ、酔ってる?」
「頗るシラフよ。それなりに稼いでるんでしょ?加奈子連れてそっち行くから、雇ってよ。あなたの法律事務所で。」
「で、でも、小さな事務所だよ?それに大体僕は…」
「ゲイだからなに?子供まで作っておいて、何が一緒に居られないよ。それに大体…嫌いで私と別れたわけじゃないんでしょ?真嗣…」
「そりゃあまあ、僕の女性の一番は、今でも嘉代子さんだよ?やり直したいって気持ちもない訳じゃないけど、けど…どう言う心境の変化?」
その言葉に、嘉代子は薄く笑う。
「別に。ただ、惚れ直しただけ。必死で記者会見で、あの男…あなたの好きな棗藤次を支えてるあなた見てたら、そう思えただけ。それじゃだめ?」
「嘉代子さん…でも…」
それでも渋る真嗣に、嘉代子はそっと囁く。
「どんなあなたでも、変わらず愛してるの。どうやら私、あなたじゃなきゃ、ダメみたい。だからお願い…側にいさせて…」
「嘉代子…」
小さな啜り泣きと、ママどうしたのと心配そうな娘の声を聞いた瞬間、真嗣は大きく息を吐いて口を開く。
「いっとくけど、ショボイ案件ばかりだからね仕事。あと僕、料理の腕あの頃から変わってないから、作ってよ。手料理。嘉代子さんの作るグラタン、久しぶりに食べたいから、さっさと荷物纏めて手続きして、来てよ。」
「真嗣…」
なきじゃくる嘉代子に、真嗣はクスリと笑って、目を伏せ囁く。
「愛してるよ。嘉代子…」