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死花-14話-⑥

そうして、賢太郎をはじめ検察と被害者家族会は、殺人と殺人未遂罪。危険運転の罪で、榎戸修二の死刑を求刑。

弁護士側は、あくまでも過失だったと、有期刑を求刑し、裁判は結審した。

「ほんなら、お世話になりました…」

花藤病院の正面ロビー。

看護師から花束を受け取り、藤次と絢音は頭を下げる。

「いや、ホントによかったです。絢音さんの記憶が戻って。後は、審判を待つばかりですね。」

「はい。自信はあります。必ず、僕達の願う審判になると、思ってます。…な?絢音。」

「う、うん…そうね。」

「?…どないした?何や浮かない顔して…まだどっか調子悪いんか?なら、まだ入院しとっても…」

「う、ううん大丈夫!まだ、実感持てないだけ…藤太と恋雪がいないことに…」

そうして涙する絢音の肩を優しく撫でて、藤次は言葉を紡ぐ。

「焦らんでええ。ワシかて同じやったんや。せやから、裁判の判決出たら呉に行こ?2人で新しい土地で、のんびり過ごすんや。な?」

「うん……」

それでも絢音が浮かない顔をするので、京橋はにっこりと笑う。

「何かあったら、いつでも来ていいですからね。どうぞ、お大事に…」

「ありがとう…ございます…」

「えっ?!検事正が?!」

同刻、京都地方検察庁楢山賢太郎検事室。

稔から聞いた言葉に、賢太郎は瞬く。

「ハイっす。さっきこちらに来られて、これを検事に渡してほしいって…」

そうして出されたのは、2つに裂かれた自分の辞表と、一通の手紙。

「全ては闇の中。責任は俺が取る。よくやった。」

「検事正…」

いてもたってもいられず検事正室に行くと、安河内がいつもと変わらない涼しげな顔で、荷物を片付けていた。

「検事正…まさか、榎戸の殺人の逮捕状…」

その言葉に、安河内はフッと笑う。

「なに。ちょっと知人の議員に金を積んで、圧力を更にかけただけさ。だが、もし公になれば、結審したとは言え棗君の裁判に支障が出るし、地検にも迷惑がかかる。だから今のうちに、トンズラするのさ。」

「検事正…」

狼狽する賢太郎の肩を叩き、安河内は静かに笑う。

「後は任せたぞ?楢山賢太郎検事。」

「はい?!」

「だから、してやって良いって言ってるのよ。再婚。」

同日夜。京都郊外のマンションの一室。

突然掛かってきた元妻の電話に何事かと思っていたら、予想外の言葉が出てきたので、真嗣は素っ頓狂な声を上げる。

「えっ?!…なに嘉代子さん。よ、酔ってる?」

「頗るシラフよ。それなりに稼いでるんでしょ?加奈子連れてそっち行くから、雇ってよ。あなたの法律事務所で。」

「で、でも、小さな事務所だよ?それに大体僕は…」

「ゲイだからなに?子供まで作っておいて、何が一緒に居られないよ。それに大体…嫌いで私と別れたわけじゃないんでしょ?真嗣…」

「そりゃあまあ、僕の女性の一番は、今でも嘉代子さんだよ?やり直したいって気持ちもない訳じゃないけど、けど…どう言う心境の変化?」

その言葉に、嘉代子は薄く笑う。

「別に。ただ、惚れ直しただけ。必死で記者会見で、あの男…あなたの好きな棗藤次を支えてるあなた見てたら、そう思えただけ。それじゃだめ?」

「嘉代子さん…でも…」

それでも渋る真嗣に、嘉代子はそっと囁く。

「どんなあなたでも、変わらず愛してるの。どうやら私、あなたじゃなきゃ、ダメみたい。だからお願い…側にいさせて…」

「嘉代子…」

小さな啜り泣きと、ママどうしたのと心配そうな娘の声を聞いた瞬間、真嗣は大きく息を吐いて口を開く。

「いっとくけど、ショボイ案件ばかりだからね仕事。あと僕、料理の腕あの頃から変わってないから、作ってよ。手料理。嘉代子さんの作るグラタン、久しぶりに食べたいから、さっさと荷物纏めて手続きして、来てよ。」

「真嗣…」

なきじゃくる嘉代子に、真嗣はクスリと笑って、目を伏せ囁く。

「愛してるよ。嘉代子…」

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