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【小説】愛とか恋とかバレンタインデー2022
「できた!」
「ん?」
…2/13。聖バレンタインデー前日。
居間のこたつで眼鏡をかけて新聞を読んでいていたら、なにやら台所から甘い匂いと、絢音の嬉しそうな声が聞こえたので、藤次は立ち上がりそちらを覗き込む。
「できたて、なに?」
「ああ!ダメ!入ってきちゃいやぁ〜。」
そう言って通せんぼをするので、藤次は口をへの字に曲げる。
「なんね。ここはワシの家や。どこ出るんも入るんも、ワシの自由や!」
「だめ!台所は女の聖地よ?!通さない!!」
「何が聖地やねん。一丁前に主婦気取りかい。しかもこんなええ匂いさせて…何作ってん。見せ。」
「ぃやあんっ!!」
抵抗虚しく、藤次に台所に侵入されてしまい、絢音はプウっと頬を膨らませながら、最後の足掻き、シンクの作業台の前に立ちはだかる。
「ハイハイ。無駄な抵抗ご苦労さん。どら、見せてもらおかな?そないに真剣に、ワシに隠そうしよるもの。」
そう言ってヒョイと絢音の肩越しに作業台を覗くと、視界に入ったのは、シロップ漬けされたオレンジを飾りにした、チョコレートケーキ。
メッセージプレートには「藤次さんハッピーバレンタイン❤︎」と書かれており、思わず赤面して絢音を見やると、彼女は頬を膨らませながら、憎らしげに自分を見上げている。
「明日、びっくりさせてやろうって思ってたのに…バカ。」
「ご、ごめん。ワシてっきり、今日のオヤツか、ワシ以外の誰かにやるんか思うてたから…つい。」
「確かに、商店街のみんなにあげたけど、チロルチョコ一個よ?ちゃんとしたのあげたら、藤次さん怒るでしょ?」
「当たり前や!お前の作るもんは、全部ワシのモンや!!ワシだけ食べるんや。他のやつになんて、絶対やらん!!」
「じゃあ…作った私にも、食べさせてくれないの?」
「へ?」
不意に来た問いにキョトンとすると、絢音は食器棚の引き出しからフォークとナイフを取り出すと、ケーキを切ってフォークに刺すと、それを藤次の口に突っ込むと、ポッキーゲームよろしく、両端を互いに食べ進める体を取る。
ポロポロとスポンジが溢れたが、構わず食べ進めて、やがて口が重なり、チョコレートとオレンジの味のする甘ったるいキスになる。
「好き…」
「うん。ワシも…好きや。」
そうして2人でケーキを食べ合って、1日早く甘い時間を過ごし、翌日の本番の日曜日は、百貨店で有体な高級チョコレートを買って、これまた口移しで食べ合うと言うアツアツぶりを披露し、週明けには締まりのない顔で仕事に行きたくないと駄々をこねる藤次の姿が、見えたとか見えなかったとか…
ともあれ皆様、ハッピーバレンタイン❤︎