どうして私は万引きをしていたのか。
私は、中学生の頃に万引きをしていた。ありがたいことに補導されたので、もちろん今はやっていない。
きっかけは特に覚えていないが、万引き仲間みたいなのもいた。一緒にイオンとか行って万引きしてくるのである。悪いことをしているのが格好いいみたいな勘違いもしていて、クラスの一部は私が万引きしているのも知っていた。
本当に恥ずかしい大馬鹿野郎だ。
スリルを楽しんでいたとか必要に迫られて、とかではなく、なんとなく万引きをしていた。キラキラペンとか可愛いペンケースとか漫画本とか。
罪の意識はなく、ただで手に入るのにどうしてやらないんだろう?と思っていた位だ。
万引きしたものを隠し持つようなこともせず、私の汚い部屋には可愛い文房具や単行本が増えていったけど特に親が気付くこともなかった。
基本的に親は問題児である兄の対応で忙しそうだった。その頃は高校卒業して就職したホテルを一週間で辞めて、映画関係の専門学校に行くんだか何だか揉めていた。たしか。
まぁそんな漫然と万引きしていた私に救いの手を差し出してくれたのは万引きGメンのおばちゃんだった。
ペンを鞄に入れた瞬間にがっつり腕を掴まれた。その感触は今でも忘れられない。
店の事務所で私は震えて土下座をしながら今日が初めての万引きだから見逃してくれと泣いて謝った。
そんな私に対しておばちゃんは「あなたは何度もやっている。親はもちろん学校にも連絡します。」と言った。
母親が迎えに来て、万引きの理由を聞かれたので、万引き仲間の名前を出してその子が万引きを前からしている。私も万引きしろと言われ、万引きしたものを見せなきゃいけないので仕方なく万引きをしていた。と説明した。
それに対して母親はそれ以上追及することはなく、もう万引きをしないことと父親には今回の件は言わないことにすると言われた。
補導されたのが夏休みだったので、母親と学校へ行って、タバコ臭いおっさんの学年主任と話をした。
万引きの理由は聞かれず、私をしばし見つめた後、
「君をこれから、お兄さんの時みたいにしょっちゅう声をかけちゃうからよろしくな。」
と私に笑いかけた。そして、隣にいた母親はうぅっと泣き出し、母の肩をポンポンとタバコ臭いおっさんは優しく叩いたのである。
しばし、タバコ臭いおっさんと母親が兄の昔話をしている間、私は初めて入った応接室をぼんやり眺めながら涙を堪えていた。
でも、涙を流したところであの2人が私の涙の理由に気付かなかったと思う。夏休みが明けて、学年主任が私にしょっちゅう話しかけることも、もちろんなかった。
特に理由もなくやっていた万引きだったので、補導をきっかけに私は万引きをやめた。母親があの日以来、万引きの話題をしたことも一度もない。
月日がたって、こんな私も親になった。
ぼんやりと過去を振り返る時に思うのだ。
あの頃の私は、大人に何を求めていたんだろうか、大人は大馬鹿野郎の私とどう関われば良かったんだろうか。
あの時関わった大人の中で、私を導いてくれたのは万引きGメンのおばちゃんだけだった。
大人になった私は、あの頃の私を導けるのだろうか。どう導いたらいいのだろう。
もし、私の子供が同じ過ちをしたとき、私はどうするんだろう。
目の前にいるのは、昔の私だ。
質問責めにする?
平手打ちでもする?
何も聞かず美味しいご飯でも食べさせる?
私だったら、
私だったら、
私だったら、
多分、
子供を抱きしめながら、聞き出すと思う。
「あなたが本当に欲しかったものは何なのか。」
きっと、分かっているけど認めたくない欲しいものがあるのだ。
ちゃんとそれを言葉にしてもらって、私達は共有しなければならない。だって、欲しいものは、私があげられるものだから。
いや、
私以外にあげることは出来ない。
そう、
寂しくて出来た心の穴には、万引きの品物ではなく、愛で埋めてあげるしかない。
寂しくて万引きとか、
母の愛とか、
よくある結末すぎてドラマにもならない。
でも、
よくある話なのに、無くならない話なのも事実である。
せめて、私が大切にしたい家族には「よくある話」に陥らないように気をつけたいと考えている。
心に穴や傷まみれになりながら成長した私が適切な子育てをできるのかは、疑問だけれども。