【映画感想】『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』 ★★★★☆ 4.2点
2019年公開のアニメ作品『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編。スパイダーマンが存在する数多のマルチバースを舞台に、マイルス・モラレス/スパイダーマンとグウェン・ステイシー/スパイダー・グウェンの戦いを描く。
様々なコミックス、アニメ、ゲーム、実写作品などのスパイダーマン、スパイダーウーマンがマルチバースを超えて結集するという前作からのコンセプトが、本作でもしっかりと踏襲されている。
作品ごとに画風の違うキャラクター同士が同一の画面に会する違和感の面白さ、それでいて、画面全体のバランスは崩壊させないバランスの良さといったポイントは、前作のバランスを引き継ぎつつ、本作ではさらにボリュームアップがなされており、本作ではついにがっつりと実写映像や実写キャラクターまで取り込んでいる。
これに加えて本作では、ライティングや背景の演出が前作から大幅にパワーアップしている。ライティングについては、デフォルメの効いたキャラクターにかなり実写に感じの近い淡いライティングが組み合わされており、高度にアニメ的なのに引きの絵になると実写と見紛うような驚異の映像づくりがなされている。これにより、実写映像が突然作中に投げ込まれても、心地よい違和感は感じても、ノイズになるような違和感は感じない神業のようなバランスが保たれているのである。
また、背景についても、それぞれのユニバースごとにタッチを大きく変化させることで異なる世界であることをさりげなく、かつ、印象的に演出することに成功している。舞台がグウェン・ステイシーの世界に移る際が特に印象的で、コミックス版を思わせる水彩画タッチの輪郭のぼやけた淡い画風で背景が描かれており、かつ、これに合わせて、キャラクターの色調やライティングもピンクやパープルがかった独特で個性的な色合いとなっている。このトーンでキャラクターがいきいきと動く時点でかなり驚異的なのだが、さらにこのタッチにより、グウェンの悩みや葛藤が画面全体から滲み出すような印象を与えることに成功しており、アニメーションだからこそ、アニメーションにしか出来ない感情表現に成功している。
さて、設定こそ複雑だったものの、ストーリーライン自体は少年ヒーローの成長譚としてかなりシンプルな作りだった前作と異なり、本作はストーリーラインを抜き出してみると、前作以上に高度にSF的で陰鬱な物語となっており、かつ、上映時間に対しての情報量も相当多い。
この脚本で普通に作ると、暗いわ小難しいわ話が進まないわで非常につまらない作品になりそうなところなのだが、本作ではこれを前述の驚異的な作画技術に加えて、絶え間ない激しいアクションシーンに、各キャラクターの見せ場の連発といったハイテンションハイカロリーな演出で、非常に満足度の高い作品に仕上げており、これは演出力の勝利と言っても過言ではないだろう。
一方、本作の物語自体は全編を通して問題提起にとどまっており、マルチバースの崩壊と親子関係の危機というSFとホームドラマの本作のメインストーリーの2本軸の決着は、両方とも来年公開の次作に持ち越されている。そのため、本作の物語的な評価は現時点では保留と言ったところだ。
本作において、主人公マイルス・モラレスと対立するミゲル・オハラ/スパイダーマン2099の主張する「スパイダーマンが愛する者と死別するという運命を回避すると、その世界は崩壊する」という理屈は経験に基づいた非常に理屈の通った主張であるがゆえに、これをマイルスにいかに突破させるかという本作の落とし所はかなり難しい問いとなっている。
おそらくは次作は「若者が情熱と友情で無理を通したら道理が引っ込んだ」という流れになるのだろうと推測されるが、だとすれば、それを納得させるだけの心情描写を頑張ってもらいたいし、できれば、もっと膝を打つような結末を期待したいところだ。