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空想物語・その3
のんびり谷中の町を歩いていると路地裏に猫を見つけた。
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頭と胴体の半分くらい下が三毛猫ガラで水色の首輪を着けていた。
猫好きのわたしはそのコを怖がらせないように、目線は前を向けたままそぅ〜っと近づく。
ところがどうだ、
そのコの方からわたしの方に寄って来るではないか!!
そのコはわたしの足元にゴロンと仰向けになり、猫らしく優しい高い声で
『お腹、どうぞ。分かるんですよ、あなたみたいなヒトのことがね!』と、こまっしゃくれた口ぶりで言う。
三日月、いや二日月(ふつかづき)くらい細くした目が笑った顔に見え、それが妙に可愛くてわたしは思わず手を伸ばして
『ありがとう。いいコね!お腹、触ってもいいの?あなた飼い猫ね?お家は近くなの?』などと一方的にたいして意味もない質問をなげかけながら差し出されたお腹のふわっふわな毛をそっと撫でてみる。
ところで『わたしみたいな人の事が分かる』ってどう言う事?
心の中でそう思った瞬間、また猫が言う
『たいていそうなんですよ。
ネコずきの人間てもんはね。
散歩とか言ってるけど、ひとりでボーっと歩いて、ナニかを探してるんだな。
そうそう癒しってヤツを見つけたいんだとか。
人間の世界ってよくは知らないけど、
生きるのが大変なんですってね。
それで言われたんですよ神さまに、
"人間たちを助けてやりなさい。
お前たちの存在だけで人間たちは安楽ぐ(やすらぐ)のだから”
って、そこに居るだけでいいって。
それがネコの仕事なんですよ。
そりゃぁね、
ネコの中にはシャーって威嚇してなかなか懐かないヤツらもいますよ。
そのコたちはね、ただ怖いだけなんですよ。
自分たちより大きな動物が近づいて来て、なにされるか分からないから、どうしても怖くておびえてしまうんです。
神さまからのお言い付けを忘れたわけではないんです。
面白い模様の猫はそこまで話すと
すくっと立ち上がって『さあ、ついて来て。こっちに美味しい草がありますよ。どうぞどうぞ。』とわたしを誘導した。
わたしがついて行くと、新鮮な緑色をした草が生えた箇所があり、そのコはおもむろに草を喰み(はみ)はじめた。本当に美味しそうに食べるのだった。
しかしどうぞとススメられても・・・。
躊躇しながらもわたしはその草を数本掴んでむしってみた。
むしった草の切り口から朝露のようなキレイな水の粒が溢れて来るのが見える。
わたしはそれを恐る恐る舐めてみた。
甘かった!
小学低学年の頃、学校の帰り道で友だちと摘んで吸ったあの赤い花、
サルビアの蜜の味、
優しい砂糖水のあの味がした。
わたしが『ありがとう』といって猫ちゃんの額を手の甲でそっと撫でた時、
温かな陽射しの中の乾燥した香ばしい匂いがして
『猫ってズルいな』って思った。
今度来る時はお礼に鰹節を持ってこよう。
※こまっしゃくれた。とは
言動などが大人ぶっていて生意気であるさま。
※ズルい。とは
ただ居るだけで癒しを与える事ができるその存在にちょっと羨ましいようなジェラシーを感じたと言う意味で使いました。