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ぽっちゃり小猫 3|仕事はいくらでもあるが体は一つだけ


吾輩はぽっちゃりだが小猫である。
〈頑張り屋〉という“おーえる”と大きな家に暮らしている。

「ただいまー」
重い足取りと低い声音の頑張り屋が帰ってきた。

頑張り屋は最近帰りが遅い。
「今日もザンギョウだったよ」と言われたが、吾輩はザンギョウが何かは知らぬ。

だが、頑張り屋がザンギョウと言う時は決まって疲れているので、吾輩はザンギョウが嫌いである。

吾輩はご飯のおかわりが欲しかったので催促してみたが、ザンギョウのせいか頑張り屋はボーッとしている。動きも頭も鈍くなり、例のごとく反応がない。

そして荷を下ろすなり、ぐったりと台の上に頭をのせた。部屋も真っ暗なままである。

吾輩はザンギョウが何か知らぬが、こういう時にどうすべきかは知っている。

手の上をフミフミしてあげるのだ。
そうするといつも頑張り屋は少し元気になって吾輩を撫で返してくれる。

だが今日はフミフミしてやっても、何も反応がない。
困ったモノだ、どうしたものか。

そうか、頑張り屋も腹が減っているから力が出ないのであるな。
仕方がない。吾輩がもしもの時に隠しておいたご飯を分けてやるか。

吾輩は棚の隙間に隠しておいたご飯を1粒、頑張り屋の目に映る位置に置いてやった。 

『おい頑張り屋、1つ吾輩のご飯をわけてやろう』

すると頑張り屋はうっすら目を開けて、こちらに目を留める。

『よいか?その代わり吾輩にまたおかわりをよこすのだ』

吾輩の声は聞こえているだろうに何故か返事がない。

はて?お腹は空いていなかったか?
と様子を伺っていると、今度はご飯をひとつまみしてまじまじと見つめている。

食べぬのか?何か変なモノでもついていただろうか?吾輩が不思議に思っていると

「そうだね、1つだけしかないよね」

頑張り屋は何やら先ほどより少しスッキリした顔をして、吾輩をようやく撫でてくれた。

全く理解できぬが、ご飯を食べないところを見るとお腹が空いていたわけではなかったらしい。

やっと立ち上がった頑張り屋の表情は、先ほどより良くなったものの動きはまだ鈍いと思った。

そんな頑張り屋を見て、ザンギョウなんてやめてしまえば良いのにと吾輩は呆れるのであった。




この作品は、土曜日の更新となります。
頑張り屋さんに休日の夜、ゆったり読んで欲しいです。
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