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ぽっちゃり小猫 10|説明したがりおもいやり
吾輩はぽっちゃりだが小猫である。
〈頑張り屋〉という“おーえる”と大きな家に暮らしている。
頑張り屋は、よくしゃべる。
とくに、一生懸命なときほど、たくさん話す。
今日も、光る板を耳に当ててしゃべっている。
「それでね、こういう流れでやると分かりやすいかなって思って…」
「うん、うん、それでね、前回のやつも参考になると思って…」
とにかく長い。
吾輩は、丸まってあくびをする。終わるまで昼寝でもしようか。
そう思ったタイミングで、おしゃべりが終わった。
「……はあ、また面倒くさいって思われたかも」
光る板をぽんっと机に置いて、
「何で説明長くしちゃうんだろ…」
「もっと短く話せばよかった…」
と、小さく頭を抱える。
だが、吾輩は知っている。
頑張り屋がたくさん話すのは、誰かを困らせたいからじゃない。ただ、一生懸命に伝えたいだけだ。
その思いは猫にだって伝わるのに、頑張り屋は喋り終えた途端、不安になり落ち着かなくなる。今日はそれを分からせて落ち着かせてやるか。
にゃーにゃー作戦、開始。
「にゃー!」(頑張り屋!)
「にゃーにゃー!」(吾輩腹が減ってる!)
「にゃーにゃーにゃー!」(ぽっちゃりな可愛さを維持するのも大変でな!)
頑張り屋がふり向く。
「どうしたの? そんなに鳴いて…」
「お腹すいたの?」
「にゃー。」(そうだ!)
「ちょっと待っててね」
「にゃーにゃーにゃー!」(いやいや、それだけじゃない)
「えっ…?遊びたいの?」
「にゃー。」(ちがう!)
「甘えたいの?」
「にゃー。」(それもちがう!)
頑張り屋は、うーんと首をかしげる。
吾輩は「にゃーにゃー!」言いながら、ぐるりと頑張り屋の足の周りを歩き回る。
「…言いたいこと、いっぱいあるの?」
吾輩はぴたりと足を止めて、頑張り屋を見上げた。目があった頑張り屋は、一瞬ぽかんとする。
「あれ? なんか、さっきの私みたいだな」
ぽつりとつぶやいた。吾輩はぴょんっと膝の上に飛び乗って、くるんと丸くなる。
「そうだ、頑張り屋」
吾輩はグルグルと喉を鳴らして、満足気に返事をする。頑張り屋の肩が、ふっとゆるんだ。
「...そっか」
頑張り屋は微笑んで吾輩を撫でてくれる。
「一生懸命話してくれてありがとう」
にゃーにゃー作戦、大成功である。
まあ光の板に思いやりが伝わっているか、本当のところは分からない。けれど、頑張り屋が安心したのなら、それでいい。
そう信じてほしいと、吾輩は思ったのであった。
作者あとがき
私もしょっちゅう説明が足りているかと不安になったり、逆に説明しすぎて不安になったりすることがあります。しかし、自分以外の気持ちはどれだけ考えても分からないものです。
私はそんな不安でいっぱいになった時、私が逆の立場だったらどうかを考えるようにしています。猫ちゃんがニャーニャー鳴いていて、それがしつこくても、何を言っているのか分からなくても、一生懸命伝えようとする様子をみて、面倒なんて思いません。むしろ愛おしく感じます。
そう感じるのはお互いのことを大切におもっているからだと私は信じています。
もちもちが言うように、相手の本当の気持ちは分かりませんが、相手のことを大切に思うその気持ちに目を向けて生きていきたいです。
この作品は、土曜日の更新となります。
頑張り屋さんに休日の夜、ゆったり読んで欲しいです。
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