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ぽっちゃり小猫 2|苦しいなら余白を作ればよい


吾輩はぽっちゃりだが小猫である。
〈頑張り屋〉という“おーえる”と大きな家に暮らしている。

吾輩には体を舐めねば気が済まないという習性があるが、頑張り屋にもおかしな習性がある。

折り畳みの光る板をジッとみつめて、凹凸の部分を細い指でカタカタ押すというものだ。
足の動きは吾輩よりも遅いくせに、指は信じられないほど素早く動かせるらしい。

最初は好んでやっていると思っていたが、頑張り屋がカタカタをしないと落ち着かなくなる様子から、徐々にこれは習性であると吾輩は理解した。

だが、吾輩はその習性を不憫に思っている。頑張り屋が少し苦しそうにそのカタカタを行うからだ。

それに吾輩はカタカタをやっている頑張り屋の声音や仕草は忙しなくて好きではない。

実は何度かやめさせようとしてみたのだが、その度に頑張り屋は不機嫌になり、吾輩をすぐに持ち上げて遠くに追いやる。ブツブツ言いながらまたカタカタをやり始めてしまうので上手くいったためしがない。

悩んだ吾輩は、頑張り屋がいない隙に、カタカタについて調査してみることにした。
頑張り屋が立ち上がり、トイレとかいう部屋に入っている間が勝負である。

そして今、その時が来たので吾輩は急いでカタカタの上に飛び乗った。

『うぅ』

吾輩には眩しすぎる。思わずうずくまってしまった。こんな光を見つめなければならぬ習性などなんて可哀想なことか。

しかし座り心地は暖かくて悪くない。思わずあくびも出てしまい、吾輩はひとまず丸まって次の一手を考えることにした。



「あ!!!ちょっと!!!!!!」

吾輩はうとうとしてしまい、いつのまにか時間が経ってしまったらしい。気づくと頑張り屋は恐ろしく不機嫌な顔で吾輩の前に仁王立ちしていた。

「ヨハクがいっぱいできちゃったじゃないの!!」

光の板を見つめて大きな息を吐く。吾輩はどうやら、あの眩しく見えない光の先にヨハクというものを作ってしまったらしい。だが、吾輩はヨハクが何のことかさっぱりである。

『すまなかった!ヨハクが何かは知らぬ。もう邪魔しないから、どうかおやつ抜きにはしないでおくれ』

吾輩は不機嫌な頑張り屋も嫌だが、おやつが貰えないのはもっと嫌なのである。必死に頑張り屋に泣き叫んだ。

すると、叫ぶ吾輩を見た頑張り屋は、突然フッと力を抜いた。意外にも「まあいいや!」などと言いながら吾輩を手のひらの上にのせて、ゆっくり撫で始めたのである。

その後も頑張り屋はカタカタに戻ったのだが、何故だか前よりも落ち着いた様子で、吾輩はとてもホッとした。

そうか、カタカタをやめさせるのは難しいので〈ヨハク〉というものをつくってやれば、頑張り屋は落ち着いてできるようになるのか。

吾輩はこの日やっとカタカタの扱いを覚えたのであった。




この作品は、土曜日の更新となります。
頑張り屋さんに休日の夜、ゆったり読んで欲しいです。
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