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第十八首-折りたたみ傘を位牌のように差しだれかのさきをきみは歩める

十八首目。折りたたみ傘って便利ですよね。愛とか希望とか嫉妬とか涙とか、そういったものも折りたたんでポケットの中に入れられたりしたらいいのに。そして都合のいいときに出し入れできたらいいのに。

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不幸は顔に出るっていうし、そのときあたしはそういう顔をしていたんだろう。たぶん。誰かを悼むみたいにぽつぽつ、一定のリズムを保って落ちる雨が頭の少し上のあたり、ビニールの傘に当たって弾ける音を聞いていると、いつの間にやって来たのか小さな男の子が下からのぞき込むようにしてあたしの顔を指差した。

「誰が死んだの?」

誰が死んだ。誰かは死んだのだろう。今この瞬間にだってこの地球上で誰かが死んでいる。でも、その少年が放ったことばは誰かを失ったその当事者に対する響きを含んでいた。

「誰かにとって大事なひとが」

あたしは答えた。傍観者として、当事者になれなかった者として。

「そう」少年はつまらなそうに返した。気のせいか少年は先程よりも背丈が伸びたように見えた。

「誰のせいなの?」

あたしの、と言いかけて、自分にはその権利すらないことに気づく。

「誰のせいでもないの」

少年は困ったように笑った。その憂いを含んだ瞳は今やあたしの目線と同じ高さにあった。

「誰を待ってるの?」

誰を……待っているのだろう。それどころかあたしはいったいいつからここに立っているのか思い出せないでいる。まるで当たりのないくじ引きの箱に手をつっこんでしまったみたいに、身動きがとれないでいる。

気づけば少年はもうあたしの背丈をゆうに越え、今や見上げる形になってしまった。そして、やがてそれは一本の大きな木になった。

ぽつ、ぽつ。

さっきまで途切れることなく鳴っていた音はいつの間にか弱くなっていて、あたしは思わず傘の下、のぞき込むように空を見上げ、それから声をあげた。ぽっかり。そんな表現がぴったり当てはまるように空には穴があいていて、見たこともないくらいに澄んだ青空が顔をのぞかせていた。

それでも、またしばらくしたらこの傘を雨が打つのだろう。
その前に、あたしはあたしの帰るべき場所に帰ろう。
あたしは祈るように手を合わせて、そして静かに歩きはじめた。

折りたたみ傘を位牌のように差しだれかのさきをきみは歩める(盛田志保子)

神聖かまってちゃん「ベイビーレイニーデイリー」

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