不思議な人と結婚した
私はウソではないかと疑っているが、大学の部室で初めて会ったとき、夫は私を可愛いと思ったらしい。
申し訳ないが私には初対面の夫の記憶はない。
その後、夫を認識した私は「同級生に見えんわこの人」と思っていた。
院生よりもOBよりも老けていたのである。
結婚式では、夫は標準体型より太っていたせいで、貸衣装のモーニングを選べなかった。
恰幅のよいおじさんみたいで同い年の夫婦には見えなかった。
私はもともと外見にこだわらないタイプだ。
もし自分が年上に見えるなら嫌だっただろうが、若く見られる方だから気にしなかった。
それから年月が経ち40代になったある日、気づいた。
夫が年相応に見えるではないか。
「やっと時代が俺に追いついたか」と夫は笑っていた。
さて50代の現在、どうなってると思う?
ふたりで並ぶと、夫の方が若くみえるようになってしまった!
私は年相応に、夫は若く見られることが多いのでこれは客観的に見てもそう。
たぶん肥満の夫の顔にシワが少ないせいもある。
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【見かけ年齢】
私 20歳 → 40歳 → 50歳
夫 30歳 → 40歳 → 45歳
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私の30年は夫の15年らしい。
この速度なら、私が80歳のとき、夫は60歳だ。
下手をすれば親子ではないか!
私は浦島太郎と結婚したのだろうか。
今風に言うと異なる種族なのだろうか。
何十年も一緒にいて、時間の流れるスピードが違うのは悲しい。
外見だけの問題ではない。
夫が読む漫画のチョイスが若すぎる。
最近など『正反対な君と僕』を買って帰った。
夫の本棚には『スキップとローファー』『少女ファイト』が並ぶ。
どれも人気漫画だ。
でも50代の私はどうしても高校生に感情移入できない。
物語の世界に入り込めない。
葬送のフリーレンも勧められたがハマらなかった。
もうファンタジー漫画やなろう小説にはついていけない気がする。
30代の頃だったら楽しめたと思うが。
学生時代に夫と本や音楽の話をしていたことを思い出す。
アガサ・クリスティをほぼぜんぶ読んでいるという共通点を私たちは発見した。
ミヒャエル・エンデやサリンジャーやサローヤンや宮本輝も読んでいた。
本棚に同じ本があるのは結婚の理由になりうる。
同世代だからこそ、一緒に年をとり、一緒にコンテンツを楽しめると思っていたのに。
自分に不釣り合いなほど老けてしまった女を夫は嫌いにならないだろうか。
夫に頼んでみた。
「私、これからも遠慮なく老けるから、私のことは心眼で見てね」
「可愛い」なんて、親にも言われたことない女の子が可愛く見えた人だから、たぶん大丈夫。