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ペットを売らないペットショップが当然になる訳

今回は日本女子大学教授の細川幸一教授の記事をお借りしました、是非ご覧ください。

都内の筆者の自宅近くにある大規模商業施設のなかに比較的大きなペットショップがある。常時20匹ほどの犬猫のほか、ウサギ、ハツカネズミ、インコなどの鳥類、魚類などの生体販売の他、ペットグッズが豊富に揃う店舗だ。

先日、久しぶりに店内をのぞいてみたら、犬猫がいたケージの前にペット用品棚が置かれており、犬猫販売のコーナー自体が閉鎖されていた。ここ数年、コロナ禍で店が閉まっていたり、犬猫が姿を消していたことがあった。そのため、店員に尋ねてみたら、動物愛護管理法が改正され、ケージの基準が厳しくなり、対応ができないので、犬猫の販売をやめたと聞かされて驚いた。

動物愛護管理法の規制は年々強化

ペット(愛玩動物)を含めて動物を保護するための包括的な法律が動物愛護管理法だ。動物のいのちの尊厳を守るべしとする世論の動きとともに、動物を虐待する事件がたびたび明るみに出るなかで、動物愛護管理法の規制は年々強化されてきている。

そうした動きの1つが2021年6月1日から導入された犬猫を扱うペット業者の繁殖・飼育方法に飼育頭数の上限やケージの広さなどを規定する「数値規制」だ。導入は準備期間を考慮して段階的に進められている。これにより、ペット業者は大きめのケージを設置する必要がある。

数値規制は既存業者の準備期間を考慮している。ケージの広さは、「犬猫とも縦は体長の2倍以上、横は1.5倍以上」「高さは犬が体高の2倍以上、猫が3倍以上」とした。ただし、導入は新規業者が同日からだが、既存業者が2022年6月からとなる。私が訪れたペットショップはこの2022年6月までのケージの変更がスペース等の問題でできず、犬猫の販売をやめたようだ。

従業員1人当たりの飼育頭数の上限については、新規業者が2021年6月から繁殖業で「犬15匹、猫25匹まで」、販売業で「犬20匹、猫30匹まで」。一方、既存業者はやはり段階的な導入で、2022年6月から繁殖業で「犬25匹、猫35匹まで」、販売業で「犬30匹、猫40匹まで」となり、2024年6月からは新規業者と同じ規制が適用されることになっている。繁殖年齢についても犬猫とも原則「6歳まで」とし、新規、既存業者とも2022年6月からの導入となる。

コロナ禍の巣ごもり需要のひとつであろうか、ペット需要の高まりや、こうした規制で業者側の負担が大きくなることもあり、ペット価格の高騰が続いている。事業者団体からは、経営的に苦しくなり、廃業する者も出てくるという懸念の声が聞こえるが、動物愛護団体からは価格が高くなれば、飼い主が安易に購入することが減り、動物の愛護につながるという声も聞かれる。

価格が高騰すれば富裕層しかペットを飼えなくなるという意見も聞かれるが、筆者の周りのペット愛好家に入手方法を聞くと、保護犬・保護猫の譲渡を受けたという人が年々増えている。いのちある動物を店に陳列し、モノのように販売することをおかしいと思う消費者が増えているのだろう。

フランスではペットの店舗販売が禁止に

2021年11月、フランスでペットとして飼われている動物が捨てられるのを防ぐため、2024年から犬や猫の店舗での販売が禁止されるというニュースが話題となった。フランス議会が動物の扱いに関する法律の改正を可決し、2024年からペットショップなどでの犬や猫の販売禁止を決めた。飼いたい人はブリーダーからの直接購入や、保護施設からの引き取りなどに限られることになるのだ。

また、衝動買いによってペットが捨てられることを防ぐため、購入してから7日間は解約を可能としたうえで、購入者には飼育に関する知識があることを証明する書類への署名も義務づける。

筆者が訪れたペットショップは犬猫に関して「ペットを売らないペットショップ」となった(犬猫以外の生体販売は続けている)。ペットの中でも犬猫が特に厳しい規制を受けているという背景もあるが、この動きは今後も加速していくだろう。

実は4年前の2018年に筆者はこうした動きを紹介している。岡山市にあるペットショップ・シュシュ(chou chou)が「ペットを売らないペットショップ」として話題となっていたので、訪問記事を書いた(『犬を売らないペット店が岡山で人気の事情』2018年6月29日配信)。

岡山県、岡山市、倉敷市の動物愛護センター・保健所で殺処分を待っている犬を引き取り、里親探しをしている店だ。当時、なぜそんな商売が成り立つのかが不思議で同店を訪れた。

ペットの殺処分という「出口」の問題を解決するにはいのちの売買という「入口」の問題を考えていかなければならないということで、2015年春よりシュシュはペットの販売をやめ、無償での里親探しを始めたのだということだった。

ペットを売らずに稼ぐビジネスモデル

しかし、ペットショップは民間企業。利益を生み出さないビジネスはありえない。そのヒントは店舗にあった。シュシュの売り上げの4割はペット用品の販売、さらにトリミング事業が3割を稼ぎだし、残りの3割はグッズの通信販売ということだった。ペットを売らないペットショップとして話題になり、それを支持するペット愛好家たちが来店したり、通信販売で関連商品を買ってくれると聞いた。

当時は「ペットを売らないペットショップ」が珍しかったから話題となり、それがビジネスにつながっていたようだが、時代は変わっていき、ペットを売らないペットショップが当たり前の時代になっていくのだろうか。その時に「ペットショップ」が「ペットグッズショップ」として成り立つのか、あるいは廃業が相次ぐ事態となるのか。

筆者が驚いたことの一つにAC広告がある。公益社団法人ACジャパン(ADVERTISING COUNCIL JAPAN)が提供する「一目惚れ」と題する広告だ。見たことのある人も多いだろう。

夫婦と思しきカップルがペットショップに入り、プードルの子犬に一目惚れ。店員とのやりとりも明るく進み、プードルの顔がアップになったところで雰囲気は一転し、「その一目惚れ、迷惑です」という愛犬家で知られる俳優遠藤憲一の声。衝動買いを慎み、いのちを大切にしようと訴える遠藤さんのナレーションとなる。

ACジャパンはその企画趣旨について、「可愛いからという一瞬の衝動で飼うのではなくいのちを預かる大切さを、飼う人にも、お店の人にも考えてほしい」としている。ペット業界からクレームが来てもおかしくないような内容に驚くとともに時代の変化を感じた。

最近では、今月から犬や猫に所有者情報などがわかるマイクロチップを装着することがペットの繁殖・販売業者に義務づけられたことがニュースとなっている。チップは直径1.5ミリ、長さ1センチほどの円筒形。獣医師が専用の注入器で首の後ろ辺りに埋め込む。

15桁の識別番号が記録されており、自治体などが専用の読み取り機をかざすと番号が表示され、データベースに登録された情報をたどれる。迷子の発見に役立つほか、捨て犬・捨て猫の抑止効果も期待されてのことだ。

ペットを購入する消費者の責任

ペットは最近、コンパニオンアニマルともいわれ、「家族」と思う人も多い。その一方で、多頭飼い等による虐待や安易な飼育放棄も見られる。フランスの例のようにいのちを商品のように陳列し、販売するという「入口」の問題を解決せずして、殺処分という「出口」の問題は解決しないという考えも日増しに強くなっている。

市場で販売されている商品すべてが必ず売れるということはない。同様にペットショップで自分の好みのペットを選べるということは、選ばなかったペットがいるということであり、どうしても選ばれなかったペットが出てくる。売れ残ったペットの行方も気になる。消費者には、選ばなかったペットへの責任もあるのではないだろうか。

引用:https://toyokeizai.net/articles/-/597352

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