〔ショートショート〕笛島医院にて
「天ぷら不眠ですね」
医者は真面目な顔でそう言った。私はポカンとしてしまった。
「は?何ですか、それ」
医者はスラスラと説明を始める。
「問診票によると、この1週間、眠れないのですね」
「はい」
「で、昨日の夕食はエビの天ぷら、とありますが」
「はい、そうです」
「一昨日も同じですね」
「はい」
「その前も」
「エビ好きなので。それが何か?」
医者はコホンと咳払いをする。
「これは間違いなく天ぷら不眠です。エビ天不眠と言ってもいい」
私は少しイライラしてきた。
「だから、それは何かと聞いているんです」
医者は溜息をついて言う。
「そのイライラも、天ぷら不眠の症状です。毎日天ぷらを夕食に食べ続けたことによる胸焼けや消化不良が、不眠になった一番の原因でしょう。更に、あなたにはもう1つ原因があります」
「な、何でしょう」
医者は深刻な表情で言った。
「エビの祟りです」
「…もういいです」
私は病院を出て看板を見る。「笛島」のフリガナは「テキトウ」だった。
(完・409字)
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(6/25、少し修正しました)