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【グリーン水素】電解装置はいつか時代遅れになる

今「カーボンニュートラル」が世界的トレンドになっています。

まるで宣言した者勝ちのように、各国が「20XX年までにカーボンニュートラルを達成させる!」と表明しており、日本も例外ではなく、1年ほど前に発表しています。そして日本を含む大抵の国では2050年あたりを目安としています。

私は仕事柄、カーボンニュートラルなどの話題に触れる機会が多いです。まだ異動してきて数か月、見習いの身なので辟易とまではいかないにせよ、実感としては本当にどの国も、どの産業も、どの企業も、アピールしまくりです。もはやマウンティングです。当然、脱炭素というのは素晴らしい目標だと思いますし、私自身そこに携わる一人間としてカーボンニュートラルが実現できる社会になればいいなぁと思います。

しかし、多いのが覚書を締結した系のニュース。端的に言えば「私たちはカーボンニュートラルに向けた〇〇に関する取り組みについて誰々と覚書を締結しました」という内容の記事を毎日1記事は目にします。私自身この手のニュースから企業がどれだけ脱炭素に力を入れているか、勉強になるので大事な情報であることは間違いありません。別にいいのです。でも少しこの手にニュースに疲れてきて、本音を言えば

「覚書結んだだけでまだ何も成しえてないよね?」

という感情が沸いています。

人工光合成の技術

そんな中、最近明るいニュースがありました。

8月26日なのでもう1か月ほど前のプレスですが、NEDOが大規模な人工光合成の実証試験に成功した、という内容。私は専門家でもないので詳しくはNEDOのWebサイトを覗いてほしいのですが、人工光合成というのは植物における光合成(水とCO2から酸素とブドウ糖を生成)プロセスを人工的に行う、すなわち特殊な触媒を用いて「水とCO2から酸素、水素または有機物を生成する」技術のことです。

NEDOでは人工光合成の技術を用いてグリーン水素を作りだし、かつそれが大量生産可能な方法によって実現されたということで話題になりました。

カーボンニュートラルに向けた取り組みとして日本や世界で注目を集めているのが水素やアンモニアといったエネルギーです。これはいずれも燃焼したときにCO2を排出しないということで化石燃料の代替として注目を集めています。特にカーボンニュートラルな水素の製造方法としてはブルー水素とグリーン水素があります。詳しくは下の記事を見てみてください。

ブルー水素は化石燃料から水素とCO2を生成し、CO2を埋めるという方法、グリーン水素は再生可能エネルギーで水を電気分解し、水素を取り出すという方法です。どちらもカーボンニュートラルな水素ということで話題なのですが、ブルー水素にはCO2を埋める技術が必要で、グリーン水素には電気分解装置が必要となります。

そこで先ほどのNEDOのニュースを見て初心者の私は「あれ?」と思いました。グリーン水素として知られる水素と人工光合成により作られる水素、いずれも再エネから水素を生成しているのですが、後者には電解装置がありません。コストはさておき(←ここが最も大事なところではありますが)電解装置が無くてもグリーン水素が作れる、というのは新たな学びでした。人工光合成はすごい。

また、最近こんなニュースもありました。

https://fuelcellsworks.com/news/researches-set-a-new-efficiency-record-set-for-solar-hydrogen-production/

これはオーストラリアの大学が、人工光合成の変換効率として17.6%の新記録を打ち立てたというものです。こうなると今の太陽光発電の一般的な変換効率20%が見えてくる。太陽光は無尽蔵なエネルギーなので変換効率自体を議論するのはどうか、という感じもしますが、人工光合成を使った方法も一般的なグリーン水素製造も、技術的には大差はないのです。

それでも電解装置はなくせない

さて、今のトレンドである覚書締結系ニュースを見ていると、グリーン水素を作るプロジェクトに関しては当然、「電解装置をこれだけの規模配置します!」という宣言が見受けられます。そして一つ思うのは、その計画は今から約5年後、大体2026年あたりに完成することになっています。

「これだけ人工光合成の技術の進展が目覚ましいなら電解装置なんて置かずに人工光合成で水素製造すればいいのでは?」

と感じてしまいます。でもそれはナンセンスなんだろう、と。プロジェクトを早い段階で計画する、先行者利益を見込みたいのであれば尚更、この世界のトレンドは必然です。となれば計画段階で実現可能で成熟した技術を使わないと確実性がない。そういう意味で電解装置を使ってグリーン水素を製造するプロセスは当たり前の計画です。

でももし5年後、人工光合成の技術が十分低コストで汎用性が高い技術になっていたら、その時私たちはなんて思うのかな、と思ったりします。「そういえばあの時は電解装置を使うしか世間は頭がなかったよな」と思うのかもしれません。でもそんなものは技術が発展していく過程では当たり前だろ、とも思います。基礎研究レベルで考えれば我々の身近にある新たなテクノロジーの多くは10年、20年前の技術を使っていると聞きます。

時代の波に置いて行かれないようにしたい。30代に突入し、益々そう感じます…。

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