ゴースト#冬の香り
香水が好きだ。
それも甘く、重く、もったりとした香りが好き。
私と香水との出会いは、大学生の頃。子どもの頃から「匂い玉」や「香る消しゴム」が好きだった私が、お小遣いで初めて香水を買ったのが大学生の頃だった。
当時住んでいた仙台は、乾いた冷たい空気に満ちあふれていた。そんなに雪は降らないけれど、南国生まれの私にとっては北国だった。
思い出すのは、枯れ枝になった青葉通りのけやき並木の姿。なぜか青々と繁ったけやきより、裸になった木の方が記憶に残っている。
真冬になると、定禅寺通りで「光のページェント」が始まる。点灯の瞬間を友達と一緒に見て、歓声をあげたりした。そんな時はいつも、香水をつけていた。甘くて重たい、冬を連想させる白さを感じる香水を。
大学在学中に病を患い、中退して実家のある高知に帰ったのが3年生の時。鬱状態で家にひきこもる私を慰めたのもまた、香水だった。
特にお気に入りだったのが、「ゴースト」という香水。ムスクを基調とした、甘い重いまとわりつくような香りだけれど、わずかな冷たさも感じさせる、そんな香水だった。
ゴーストは冷たい仙台の空気にはよく似合っただろう。しかしここは南国高知。カッと照りつける太陽が降り注ぎ、焼けるように暑いこの地には、まるっきりゴーストは場違いだった。
「…これ、何の匂い?」訝しげに聞く知人もいたりして、周りからは不評だった。けれど、私はゴーストの香りが大好きだった。すりガラスのボトルに入ったゴーストを吹きつけると、瞬く間に仙台で過ごした夢のような時間を思い出すから。
香りは一気に記憶を呼び覚まし、冬、雪に足を取られながら通学したことや、サークルで東北の民俗芸能に熱中したことなどを、鮮やかに浮かび立たせる。
私にとっての冬の香りは、ゴーストの香り。そのゴーストも、今は廃盤となり手に入らなくなった。私の記憶もだんだん薄くなり、仙台で過ごしたあの冬を思い出すものは、遠く消えて行くばかりである。
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