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ニレ川南

 冒険者の一日は日雇い労働者のようなものだ。宿で簡単な朝食を摂り、昼は依頼をこなし、夜は再び宿で夕食を頂き、寝る。家でもあれば生活拠点として自由にできるのだが、その家を買うお金はいっぱしの冒険者の懐事情では厳しい。安宿で食う寝る依頼しかできない私にとっては夢のまた夢だ。
 少し離れた鉱山へ採掘に行き、一攫千金を狙うという手もある。金鉱石が掘れるという噂のラシオ鉱山。ツルハシとスコップを携えた労働者が寄り合い馬車に乗り込む姿はもはや日常茶飯事だ。しかし、向かう労働者に対して帰ってきた者が少ないのはどういうわけか。

 本日は依頼の魚釣りだ。フィナージュ街の中央を流れるニレ川南のほとりで魚を10匹釣ること。報酬は180マルク。平原での討伐依頼と比べ、やや割安だが川でもモンスターに襲われるので危険度から言うと割に合わない。そのため、掲示板の売れ残りの代表格だった。だが、私も剣を振るうだけが能ではないと思い、気分転換がてらに釣りを望む。

 竿をしならせ、一投目。
 川の中央辺りに落ちた釣り針は緩やかな流れに身を任せてやや川を下る。その直後竿をぐいと引く何かの気配を感じ、私の竿を持つ手に力がこもる。さて、釣果はいかに。
 結果は20cmのアオハゼ。唐揚げにしたら美味い。
 そんな調子で何度も竿を振るっていたら用意しておいた水バケツは魚で満載。今のところモンスターも現れないし、順風満帆といったところか。
 しかし、そうは問屋が卸さないのが現実。私が釣った食べ物の匂いにつられ、水草の影から爬虫類科のモンスター『ミヌゲーター』が現れた。獰猛な牙の持ち主で、その巨大な顎は岩をも砕く。
 私は代わり映えのしないロングソードを構えてミヌゲーターと対峙する。相手の行動を見極め、剣を振り下ろすのみ。さぁ、勝負の行方はいかに!

 ミヌゲーターは通常、体当たりで相手の体制を崩したところを噛みつくという行動パターンを持つモンスターだ。その定石を知っていたからこそ対応できたと言えよう。なかなか強烈な体当たりだった。
 避ける選択肢はあったが、避けた先にあるのは魚が入った水バケツだ。釣り直しになるのは御免被りたい。それでは今日はこのあたりで切り上げることにしよう。

続く?