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「spring スプリング」 恩田陸 2025本屋大賞ノミネート 読書感想
直木賞・本屋大賞の「蜂蜜と遠雷」が初めての出会い。ピアノコンクールの物語から、今回はクラシックバレエ、コンテンポラリーバレエの物語。
長野県の自然の中で育った萬春(よろず はる)は、地元のバレエ教室を経て、ドイツの名門バレエ教室に抜擢される。類稀な観察眼と感性でダンサー、振付家として才能を開花する。遠い目をしてカタチなすものが纏うもの全てを没入して表現する。
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「跳ねる」ドイツバレエ教室の同期、深津純が語るヤツ。ダンサーとして才能を認められたJUNが、想像を超える表現で踊るHALとの交流。
「芽吹く」バレエ教室の森尾つかさに声をかけられて、バレエを始めた彼。叔父の稔さんの視点で、春の幼少期が語られる。犬の動き、梅の香りまで表現する。ギフテッド・チャイルド。
「湧き出す」長野のバレエ教室で、正統派女王をまとう姉の滝澤美潮、自分の音楽を奏で舞う妹の七瀬に出会う。作曲家の道に進んだ七瀬が語る春ちゃん。あらゆるものからカタチを見いだして踊りに昇華する春。あらゆるものからメロディーを見いだして作曲に昇華する七瀬。春の振り付けと七瀬の作曲が融合する。
「春になる」俺が自身を語る。バレエの神に恋して、バレエ教室同期のフランツ親子との奇妙な関係。振付家の師匠ジャンとの師弟関係。自分自身のための振り付けた演目のソロ公演。バレエに目覚めた時の自分と向き合い、求めていたカタチが作品になる。
高尚な芸術を扱う作品は、ふと背筋を伸ばして読んでいる気がした。マニアの世界に足を踏み入れる、読み応えのある作品。
たまたま見たTV番組では、NHK プロフェッショナル 仕事の流儀2月14日「自由の、その先に バレエダンサー オニール八菜」日本人初のオペラ座のエトワールを取り上げていた。タイミングの小さな偶然に驚きながら、ストイックな世界の現実も垣間見て豊かな時間を感じた。
読書は、やっぱり楽しい。