雪色の邂逅・1
第六猟兵(https://tw6.jp/ )の二次創作です。
世界観はふわふわ。
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――猫(あなた)を拾った。
あれは寒い日のことだったわね、とポノ・エトランゼ(f00385)は猫に語りかける。
藍色の瞳を瞬かせ、猫はきょとんとした表情に。今でこそ少しずつ喋るようになったが、保護した猫は今よりも大人しくて喋らない猫だったのだ。
アルダワ魔法学園の櫛でふわふわの毛をブラッシングする時間は、ポノが猫へとよく話しかける時間だ。
冬も過ぎようとしている今だが、夜はまだ寒い。
暖炉の前で、敷き布に座って猫の毛を梳る。
「暖かくなったら、あなたも外に出るといいわ。ここだけではない、たくさんの世界を歩くのはきっと楽しいわよ」
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突然に予知として何らかを感じることはあるけれど、ポノは自身の足で『それ』を探すのが性に合っていた。
酒場を訪ね、依頼板や噂話を仕入れる。ぴん、とくれば『それ』の合図だった。
とはいえアックス&ウィザーズと呼ぶようになったこの世界は広く、なかなか『ぴん』と来ない。
この時期は手仕事も終わりへと差し掛かり、空いた時間を使って彼女は近くの町を訪れた。町の大きな宿場はコの字型の建物、中庭には隊商が乗り入れることができ、旅の商人や冒険者が集う食堂兼酒場がある。
酒場へと入ったポノが見回せば、客の注文を取り終えたところの女将と目が合った。
「こんにちは、おばちゃん」
「おや、いらっしゃい、ポノ。今日は北からの団体さんが来ているよ。彼らが珍しい物を拾ったらしくってね」
情報のために訪れることを知っている女将が、早々とポノに噂を投げてきた。
「そうなの? その話、気になるわね。――おばちゃん、情報提供ありがとね」
「まあまあ、ポノには良い護り印をたくさん作って欲しいからね、声掛けくらいお安い御用さ」
「ちゃっかりしてるー」
旅に精霊印のお守りを。宿場を訪れた客人へ、女将が話巧みに売りつけるお守りはポノの手によるエルフ仕込みの品であった。
神秘的な事柄への順応力も高いエルフは、自身を媒介に『神秘』の付与能力もあるのだろう。ポノが出身とするエトランゼの森のエルフは、四元論と神秘思想を架けた魔術を使う。
基本的に体を動かす方が好きな彼女は勉強も修行もあまりしてこなかったが、好きなように架ける「勘」だけは良いのだ。編んだ術のお守りは効力が強い方である。
下心満載のやり取りに、お互いにんまりとする。
(「これってwin-winってやつよね」)
UDCアースで覚えたばかりの言葉が脳裏に浮かび、ポノはにやっと笑った。同時に目まぐるしい色々なモノが行き交う世界に連想するのは美味しい食べ物――ああ、だめだめ、とっちらかってきたわ、と思考を振り切る。
それはそれとして、だ。
宿の食堂兼酒場で気になる噂を聞いていく。
曰く、冬の原のある場所で色々な落とし物が見つかったそうだ。金属製の歯車が多数に。不思議な装飾のされた杖、造りの良い書物。
冬の原で良い拾い物をした、と旅の商人たちが自慢をしている。見て欲しくて堪らない様子だった。
「へえ、すごーい」
玩具にも見えるガジェット銃に、ポノは内心「げ」と思うのだ。
(「誰かが神隠しに遭ったのかしら?」)
拾い物はアルダワのもの。考えられるのは世界が刹那的に繋がってしまったか、誰かが猟兵としての力を発露させたのか――卵が先か鶏が先かの理論だろう。因は数多に在るのだ。
見に行ってみた方が良いなと、そう思い至れば直ぐに動くのがポノである。ある意味、猪突猛進な性格。
(「地図は持ってきてる。弓もいつも通り」)
寒さから身を守るマントは、刺繍を施した愛用のものだ。水筒もある。
慣れた緑の大地は、この時期、場所によっては雪の下で眠っているけれどここ数日は雪も降っていない。駆ければ陽が落ちる前に戻ってこれるだろう。
「一応、携帯食を買っていこうかしら……何にしよう」
直ぐに動く、つもりであった。けれども食べ物のことを考えるとやはり思考が拡散してしまうのだった。
町全体に施された加護から離れれば、キンとした冷たさに覆われた世界。
この地方に伸びる冬草は白く、広がる景色は雪原のようだ。故に冬に広がる草原は「冬の原」とか「白の原」とか「偽雪(ぎせつ)の地」と呼ばれている。
マントは冷たさを遮断してくれるが、それでも寒いものは寒い。きっちりと合わせを閉じての走りはやや動きにくかった。
轍の残る街道を途中で逸れ、よく野営に使われる場所に近い冬の原。風が吹けば冬草が揺れ――、
「めっちゃ寒……!」
さくっと調べてさっさと帰ろう。そう決めて辺りを見回した。
冬草が倒れ、サークルのようなものが出来ている。強い風の精霊の痕跡と、よく分からない魔力。ばらばらと金属片が落ちているが、何かが衝撃を受けて砕けてしまったようにも見えた。めぼしい物は商人たちが持って行ってしまったのだろう。
サークルから離れて周囲を歩き探る。
冬草が立ち、茂みとなった先にも飛ばされたらしき金属片があり、かなりの衝撃が何かを襲ったのだろうと伺えた。
「ん? 何かある」
真っ白い包みを見つけたポノが近寄り、掌をかざす――あたたかい。何らかの効力がある布は何かを包んでいるらしく触れれば柔らかさを感じた。
「っていうか、げ。待った待った待って」
ぐんにゃりとしたそれに嫌な予感がして、包みを開けてみれば、猫。
ぐんにゃりとしていた。
「ね、ねこちゃん!? 生きてる?」
いや、ケットシーだ。頭では分かっていても、猫の姿をした妖精――やや小さめの猫は真っ白な毛。服を着ていたが、絵や他世界で服を着た犬猫を見たことがあるし、喋る動物やケットシーもいるので、あまり気にならなかった。
心臓に手をあててみれば、とくとくと動いている――やはり小さな鼓動であったが。
息ができるように緩く、猫を再び布で包んだポノは自身のマント内へと入れた。
軽いけれども、しっかりと生き物のずっしり感。すぐに帰ろう、とポノは踵を返した。そしてぽつりと呟く。
「猫、拾っちゃった」