「関西女子のよちよち山登り 2.5 酔ってたのしい約束を」(終)
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GW前に発生したケンカはとっくに収束している。
次郞にLINEで『私も山に登ったよ。素敵やね、山って。前はごめんね』というメッセージと頂上で撮った写真を送信し……という展開はまったくなく、なし崩し的に仲直りした。
GWが明けたあと、次郞にごはんに誘われた。
そこで登山のおみやげをもらい、お詫びに夕食代を次郞がもつといったので、もういいか、と登和子が折れた。そもそも子供の頃から怒りが持続するタイプではない。
そこから彼が登った山や取り留めのない話をしたが、結局登和子はその日、次郞に金剛山のことを言わなかった。
そして後日、また次郞と夕食を一緒にとって以来、半月近く会っていない。誘われても、登和子が残業だったり、定時で帰っていても週末の山の準備をしたかったりで断っていた。
正直、山に登っていることを次郞に話したくない。
理由は分からない。いまさら話す理由やきっかけがないというのもあるし、知られたくないという気持ちもある。
登和子は自分でもその感情を持てあましている。
優希がビールを飲み干し、ジョッキを置いた。彼女は酒に強く、目がほんの少し赤くなっているくらいで顔色は平常のままだ。
「なんかさあ、山ちゃんの話聞いてたら、私もちょっと登ってみたくなった。小学校の遠足以来やけど」
今度は登和子がテーブルに身を乗り出す。
「一緒に行く?」
「行けるかな」
「優希はサッカーやって鍛えてるから、案外楽勝かもしれへんで」
二人はきゃあきゃあ盛り上がり、近々一緒に登山をする約束をした。各自行きたい山の候補を挙げ、後日相談しようとその日は別れた。
家に帰り着き、お風呂上がりに歯磨きをしながら考える。
優希にはサッカーをしているから案外楽勝かもしれないと言ったが、それでも大人になってから初めての登山だ。二回とはいえ登山の経験がある自分が、しっかり彼女をサポートしなければならない。
「おお、先輩やん……」
登和子はつぶやいて、誇らしげに笑った。
(2.5 酔ってたのしい約束を-終)
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