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「関西女子のよちよち山登り 1.金剛山(千早本道)」(3)
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ハッとして目を上げた次郞に身を乗り出し、登和子はまくしたてる。
「次郞は私より山を優先しすぎてる!山なんて何がおもろい!?緑か?緑なんざ万博公園に行けば飽きるほど見られるわ!」
登和子は大きくため息をつき、
「大体三泊五日ってなんやねん!ハワイか!そこまでしてなんで山に登らなあかんねん。あんたは山と結婚して山と死ぬつもりなんか?このアホ!」
言いたいことを言うと、登和子はもう一度ため息をついて椅子に座り直した。
しばらく沈黙が続き、登和子が飲みかけのビールに手を伸ばしたところで、次郞がぽつりと呟いた。
「……実際に山に登ったこともないくせに」
「ん?なんて?」
まさかこの状況で反駁(はんばく)してくるとは思わず、登和子の声は臨戦態勢で低くなった。
「確かに予定の変更は悪い。完全に俺が悪い。それはごめん。去年からずっと言ってたし……でも、山の何がおもろいかなんて、登ったことがない人に言ってほしくない」
登和子の様子を窺いつつ話す次郞の、言葉尻は聞き取れないほど弱々しい。
その日から一ヶ月経ったが、まだ仲直りはしていない。
次郞からは五月一日に、山の名前とルート、下山予定時刻がLINEで送られてきた。
こんなものいらないのに……とムカムカしていると、そのときの感情とともに「登ったことがない人に言ってほしくない」という言葉も蘇ってくる。そしてさらにムカムカしてしまう。
いったん落ち着こうと、心を「無」の状態にしてぼんやりする。
昼過ぎの窓の外から、スズメの鳴き声が聞こえてくる。遠くで子供がはしゃぐ高い声や、それを追いかける母親の声も。
あーあ、なんだかなあ。
いっそ登ってみるか、山。
ふと頭によぎった自分の声に、登和子はびっくりした。
しかしそのあとすぐ、このまま言われっぱなしでは癪に障るし、何よりGWの予定がなくなったので、山に登って次郞を見返してやろうとはっきり決意した。
早速、ネットで初心者向きの山と登山に必要な物を調べた。
山は府内にある金剛山が登りやすそうだったので、サイトに載っていた地図を印刷。持ち物はGWの一日目に梅田へ買いに出かけた。
GW二日目は雨だったので、登和子は晴れ予報の三日目に金剛山へ向かうことにした。
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