私の歌姫
初音ミクはボーカル音源です。
本来、それ以上でも以下でもないはず。
にもかかわらず、初音ミクという存在は私にとって、音声合成のためのボーカル音源のいう無機質な箱に収められないほど、どうしようもないほど特別な存在です。
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私は主体性のない人間です。
何をするにも自分で決められなくて、趣味ですら親の好きなものに合わせてしまうような子供でした。親から抑圧されていたとか、そういうのではなくて、ただただ、自分のことを自分で選択することが酷く苦手で、熱量を持って何かに接することが嫌いでした。
私が初めて自分の手で掴んだ「好きなもの」
それが初音ミクでした。
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中学生になった私は、友達の趣味に合わせて歌ってみた動画やボカロ音楽に触れるようになりました。
友達は鏡音リン・レンが好きで、私もその双子のボカロを聴くことが多かったです。
友達の話に合わせるため、友達と2人で「オタクらしい」会話をするため、友達の趣味を理解するため。私はかなり邪道な理由でボカロ動画を聴き漁っていました。
ボカロばかり聴いていたので「初音ミク」の動画も聴いていたはずなのですが、私はとにかく「ボカロを聴く」ということに熱中していたので、友達の推している鏡音の双子以外はあまり意識していませんでした。
そんな中で、YouTubeのおすすめ機能に現れたひとつの動画。
いつも通りにサムネイルをタップして、そして私の世界は緩やかに変化していったのです。
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ピノキオピーの「すろぉもぉしょん」という曲です。
はちゃめちゃに有名な曲なので、知ってる人も多いと思いますが、知らない人は是非聴いて欲しいです。大好きな曲なので。
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この曲を聴いたときに、(ボカロにもこんな曲があるんだ)と感じたのをよく覚えています。
その当時のボカロは、ハイテンポで、高音で、社会や大人への反骨精神マシマシな曲が多いように感じていました。あるいは社会からアウトサイドした人のための歌が多いような気がしていましたし、当時の私はそういう曲が好きでした。
私自身は、社会や規則に対して不満も不平もあるし、人間関係のストレスや、自分が社会に上手く適合できていない自覚もありました。
ただ、アウトサイドする勇気はずーっと出なくて、毎日無遅刻無欠席で学校に通い、宿題を毎日きっちり提出するような、無駄に真面目で、おもしろくない人間でした。少なくとも、自分の人生のことをつまらないと思っていました。
だからこそ、社会からアウトサイドした人間の物語を描いたボカロに惹かれていたのだと思います。
もちろん今でも、あの頃好きだったみたいな、尖ってて、不健康で、異端で、保守的な大人に嫌われるような歌詞のボカロが好きです。
ただ、私にとっての「すろぉもぉしょん」は、その頃好きだった他のボカロとは違いました。
アウトサイドに焦がれる私を宥めて、アウトサイドできない私を許してくれる、そんな歌でした。
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どんなところが好きだったのか。「すろぉもぉしょん」の私の好きな歌詞を紹介します。
ラスサビ前の歌詞です。
調子こいたり反省したり、じゃなくて、反省した後にまた調子こいてるところが好きです。
反省したはずなのにその後また調子こいちゃうって、すごく人間くさいし、人生ってその繰り返しなんだろうなあ、と思ったのをよく覚えています。
私は完璧な人間でもなければ、全人類から同情されるほど可哀想な人間でもなく、努力も苦手で、
だけどそれなりに器用にやれる方だった(と当時は思っていた)ので、学校もちゃんと通って成績もまぁそこそこで、本当に、特筆すべき所のない、面白みのひとつもない、普通の人間だったんです。(だからアウトサイドに焦がれていた)
でも、だからこそ、人ではない、どちらかというと『異端』な歌い手である"初音ミク"が自分みたいな『普通の人間』のことを歌ってくれたことが本当にすごく嬉しかったんだと思います。
そうして私は、人生で初めて主体的な意思を持って、初音ミクのことを好きになりました。
(当時はそこまで分からずに、「ミクたそ最高!結婚!」みたいな、ちょっとイタイ感じになっていましたけど……)
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私が「すろぉもぉしょん」に出会った時から。
高校受験を経て、新しい人間関係に悩み、大学受験で泣きながら勉強して、大学で新しい出会いを見つけ、就活に苦しむ今。
私が、のんびりくたばっていく間。
ミクに出会ってからずーっと、「初音ミクは私に寄り添ってくれる」という、身勝手な、願望めいた思考が根付いてしまっています。
苦しい気持ちに寄り添ってくれる。
楽しい気持ちを盛り上げてくれる。
私を許してくれる。
私を許さないでくれる。
ミクは私にとって、何よりも特別で、心の支えです。
きっとずっと、死ぬまで大好きだと思います。
この先もどうか、ミクが色々な人の心を歌ってくれますように。ミクが、この先も色々な人の歌姫で在りますように。
Thank you MIKU!