『月をのんだ男』
酔っぱらった男がマスターにグラスを要求した。
マスターが手渡すと男は千鳥足で戸口から出ていき、
路地に出ると乱暴に満月をひっつかみ
グラスに入れた。
そのまま戻ってくると、マスターに
「これについでくれ」と言った。
マスターはウィスキーを注いで混ぜようとしたが
マドラーが月に触れると、
「カチン」と音がして月は卵の殻のように割れてしまった。
「お客さん、駄目だよこれ。中が空っぽだ。」
酔っぱらいは言った。
「かまわんよ、そのままくれ。」
酔っぱらいはそのままくしゃくしゃになった月とウィスキーを
シャーベットのように混ぜて、
パチパチと音を立てている液体を飲み干した。
「おぉ、こいつはうまい、もう一杯欲しいな。」
マスターは言った。
「今夜の月は、もうあなたが飲んじゃったじゃないですか。」