『不思議なすし屋』
ある日、小さな街に謎のすし屋が突然現れました。
そのすし屋は外観も内装も非常にシンプルで、看板には「すし屋」と
だけ書かれていました。
町の人々が興味津々でそのすし屋を訪れると、男が一人で切り盛りしており、カウンターには見た事もないようなネタが並べられていました。
人々は不思議に思いながらも、その美味しそうな寿司に誘われて食べ始めました。すると、口に入った瞬間、彼らはまるで異世界に連れて行かれたような感覚に陥りました。
食べるごとに、彼らは自分の中に色々な感情が蘇ってくるのを感じました。
幼少期の思い出や失った恋人への思い、過去の成功や失敗など、
様々な感情が蘇ってきたのです。
不思議なことに、寿司自体が人々の心の奥底に眠る思い出や感情を引き出す力を持っていたのです。
客は大将に尋ねました。
「大将、一体この寿司は何で出来ているんだ?」
すると大将は答えました。
「うちのネタはこの町の人々の感情からしいれてるんですよ。
そこの泣いているお客が食べているのが恋人に振られたと友人に相談している話のネタ、そこの笑っている客が食べているのがとある有名なお笑い芸人のネタ、そこの難しい顔をしている客が食べたのが、とある芸能人のまだ公開されていない秘密のネタです。」
寿司屋はとても繁盛し、いつも客が行列を作っていました。
しかし、ある日を境に謎のすし屋は姿を消したのです。
町の人々は再び普通の生活を送り始めましたが、
ある常連客が、ふと隣町ですし屋の大将を見かけ声を掛けました。
「あれ、あなたはあの無くなったすし屋の大将でしょう?
あんなに流行っていたのになぜ辞めてしまったんです?」
すると大将は言いました。
「いやぁ、あの町のネタの仕入れが無くなっちゃってね、今こっちの町で新しく店を出したんでまた寄ってよ。」
そう言って大将は去っていきました。