『巨大なドーナッツ』
ある朝、町じゅうが甘い香りに包まれていた。
それは、新しくオープンしたばかりのドーナッツ店から
漂っていたものだった。
帰宅途中だった女の子は、甘い匂いに誘われる様に店に入った。
店内にはたくさんの種類のドーナッツが並んでいたが、女の子が選んだのは定番のグレーズドドーナッツだった。
帰宅までどうしても我慢できなかった女の子は、
自宅までの間にある公園のベンチに座り、ドーナッツを一つ取り出し、食べようとした。
するとその時、不思議な事が起こった。
手に取って食べようとした瞬間、スポンと言う音とともに女の子がドーナッツの穴に吸い込まれてしまったのである。
支えを失ったドーナッツが、ベンチに落ちそのままコロコロと地面に落ちた。
それを目ざとく見ていたカラスが街灯から飛来し、
加えようとした瞬間、またスポンと吸い込まれてしまった。
そして、そのドーナッツは何かを吸い込むたびに少しずつ大きくなり、
奇妙に巨大なドーナッツが落ちていることに興味を持って寄って来た人々を次々に吸い込んでいった。
そしてどんどん大きくなり、車を吸い込み、ビルを吸い込み、町を吸い込み、最後にはとうとう地球を吸い込んでしまった。
静かな宇宙空間に巨大なドーナッツがひとつ、ぽつんと浮かんでいた。