『チョコレイト』
ある日、小さなチョコレイト専門店ではお店に出すための
チョコレイトが作られていました。
しかし、材料の配分を間違え、あまりにも固いチョコレイトが出来てしまいました。
店主は「これでは、売り物にならない」と言って全部をごみ箱に捨ててしまいましたが、チョコレイト作りを手伝っていた一人の少年はそのうちの一つをそっとポケットに忍ばせました。
手伝いが終わった少年は、帰りの道すがら、ポケットに入れたチョコレイトを眺めてみました。
それは丸いどこにでもありそうなチョコレイトで、しかし、通常のチョコレイトとは一味違う存在感を持っていました。
少年はそのチョコレイトを口に入れてみました。
ほんのりとチョコレイトの味はするもののとてもかみ砕けそうな
固さではありませんでした。
少年は道端に落ちていた手頃な石を振り上げて、地面に置いたチョコレイトに思い切り叩きつけてみました。
ところが、チョコレイトは割れるどころか逆に振り上げた石の方が
砕けてしまったのです。
どうしてもこのチョコレイトを砕いてみたくなった少年は、
村に一軒だけある鍛冶屋を尋ねました。
はじめは仕事の邪魔だと邪険に断っていた職人たちも、あまりに少年が必死に頼み込むので根負けして、
金床にコロンとチョコレイトを置くと、小槌をふりあげ、軽く振り下ろし
ました。
ですが、簡単に砕けるだろうと思っていた主人の予想を裏切りチョコレイトはびくともしません。
何度も小槌をふりあげる主人の額から汗がたれ、身体は上気していました。
「これは本当にチョコレイトなのか?」
職人が聞くと少年はこくりとうなずきました。
ちょっと待ってろと躍起になった主人は、裏の道具部屋に引っ込むと、
大槌を持って再び現れました。
そして思い切り振りかぶると、金床に乗ったチョコレイトの上に振り下ろしました。
その瞬間、カチン
と言う音とともに、鍛冶屋は白い光に包まれ、鍛冶屋の屋根を吹き飛ばし、
チョコレイトは光を発しながらその尾を引いて空に飛びあがりました。
そうして夜空に、今までなかった星がひとつ増えたのでした。