地獄の門 制作記録②
銀色の玉が爆音で流れていく、数字やらベルやらを意味もなく並べる、格好いい4文字熟語的な言葉を口にしたいだけ、馬が好きという嘘まみれのデートスポット、ペラの音の聞き分けで勝てると聞いて必死に耳を鍛える、アスリートの吹き溜まり
ギャンブルが楽しめる人生だったら、もう少し幸せだったのかもしれない
高校生の頃にバイト先で初めて出来た彼女という存在がいた
目鼻立ちがハッキリとして背が高く、一つ歳上のフリーターで、当初彼女は社員と結婚を前提に付き合っていた
経緯は省くし深い意味は全く無いが、簡単に言うとマンネリ解消の相手にされた
「彼との間に子どもが出来たから」
と最期に一言
物事のほとんどは予測出来ないし、結果の意味なんて受け取り手次第で自由に改変出来る
その頃くらいから、自分は物事を「ギャンブルにしてしまう」のが嫌いになったらしい
以下、「地獄の門」の制作記録になるのだが
目を閉じて、その声さえ聴いていれば満たされるこの朗読
それに形をつけてしまった事の懺悔でしかないことを理解していただきたい
1:門はどちらを向いている
2:希望を抱くことを禁ずるのはなぜ
3:門をくぐるのは自らの意思であるということ
上記3点に的を絞って、勝手に朗読が頭に響いてくる様になるまで繰り返し聴いた
気が向けば何度もサウンドスケッチをした
文字から音声、音声から音響世界に変化させる行為はリスナーの想像力の幅を狭めていく危険性が大きい
スケッチを繰り返し世界観を形作っていくうちに、その恐怖で震えた
大げさだと思うかもしれないが、音声編集を受託していると、人の命の時間を削って産み出した文章や声を預っているということに気がつく時が毎回来る
最低なのは今回の場合、それが制作方針が決まった時だった
取るべき選択肢は2つ「放棄する」か「育てきる」だ
人の親になる資格を失った自分への試練か褒美か
この世では二度と会えない、永遠の愛を誓った人の願いに沿うと決めた
手始めにAmazonで赤ん坊の人形を10体ほど注文
次にホームセンターへ出向き、置いてある種類全ての黒い塗料を購入
晴れた日のベランダで赤ん坊を黒く染めていく
まるで邪教の儀式
邪神の思惑通り赤ん坊達は次から次へとその形を醜く崩壊させていった
どうやらソフビは専用の塗料が必要で、他のものでは溶けてしまうということを知る
再びAmazonでソフビ用の塗料数種類と追加の赤ん坊をいくつか注文
その間にバケツの水に塗料を混ぜて「門」の雰囲気に合う様な液体を再現しようと試みる
水性、油性、片栗粉、ローション、
全て失敗に終わった
赤ん坊の人形の造形が気に入らないのも大きな問題だった
この時点で完成予定を1週間以上も越えてしまっていた
制作記録③へ続く